
地域とともに暮らしをつくる、 「その先」を見据えた杜設計の家づくり。
Vol.72
株式会社杜設計
宮城に根ざし、設計と施工を一体で手がける杜設計。南三陸杉を使った伐採式や、地域と向き合う家づくりは、住まいを「建てる」行為そのものを問い直してきた。グッドデザイン賞受賞を経て、同社はいま、職人の技術と暮らしの未来を見据えた新たな挑戦へと踏み出している。代表・山本浩平さんに、杜設計の家づくりの根底にある考え方と、これから描く未来について話を聞いた。
地域の暮らしを支えるために、設計と施工を一体で考える
株式会社杜設計は、宮城に根ざした設計事務所・工務店として、住宅を中心に事業を展開している。注文住宅を主軸に、店舗改修、外構造園、さらには子ども向けのものづくりワークショップまで、取り組みは多岐にわたる。杜設計が手掛ける住宅ブランド「杜ハウス」は、グループ法人の連携による強みを活かして、土地探しから住宅だけではなく、外構や家具製作まで幅広く対応できるチーム体制を構築している。そのため、おしゃれな住宅を、高い品質と性能を保ちながら、適正な価格で提供する事が可能である。しかし、事業内容が広がっても、根幹の思いは一貫している。それが「地域の暮らしを支える」という姿勢だ。
同社はもともと設計事務所としてスタートし、現在は施工まで一貫して担う体制をとっている。設計事務所出身というバックグラウンドは他と差別化されたデザイン性の高さにもつながっているが、重視しているのは見た目だけではない。「設計と施工を分けて考えるのではなく、最初から最後まで同じ目線で家づくりに関わりたいんです。完成した瞬間だけでなく、その先の暮らしまで含めて設計したいと思っています」と山本さん。住む人がどんな日常を送り、どんな時間を重ねていくのか。暮らしの質そのものを高めたいという考えから空間をかたちにしていく。
また、家づくりに関わる職人との関係性も、杜設計にとって重要な要素だ。質の高いものづくりは、設計だけで完結するものではない。現場で手を動かす職人の技術があってこそ、設計の意図は実現する。だからこそ同社は、職人と対等な関係を築きながら、次の世代へ技術をつないでいくことも、永く家づくりを続けていくためには必要だと捉えている。

東日本大震災を経て、家づくりへの考え方に変化があったという山本さん
南三陸杉と伐採式が生む、家づくりへの深い愛着
杜設計の家づくりを象徴する取り組みのひとつが、南三陸杉を使った「伐採式」だ。これは、建築に使用する柱や梁となる木を、施主自身が山に入り、選び、実際に伐採するという体験型のプロセス。家づくりの始まりを、図面や打ち合わせではなく、森の中から迎えるという点が大きな特徴となっている。
南三陸杉は、海と山が近接する独特の環境で育ち、降水量が少ない厳しい条件の中でゆっくりと成長する。そのため木目が詰まり、強度にも優れた材になるという。淡いピンク色を含んだ木肌は、空間にやさしい表情をもたらし、デザイン面でも高く評価されている。こうした地域材の魅力に加え、「どこで育ち、誰が関わった木なのか」を知る体験そのものが、住まい手の意識を大きく変える。
「実際に伐採式を経験した施主様からは、『家に対する見方が変わった』という声も多いです。自分で切った木が、完成した家の柱としてそこに立っている。それだけで住まいは単なる建築物ではなく、思い出の詰まった存在になります」と山本さん。無垢材ゆえに生じる割れや経年変化も、欠点ではなく“味”として受け入れられるようになるという。伐採式は、素材への理解と愛着を育てるだけでなく、家づくりそのものを豊かな体験へと変えている。
- 伐採式の様子。毎年10月〜3月が伐採時期となる
- 白太と赤太のコントラストが美しい南三陸杉
グッドデザイン賞が示した、地域と共にある住まいの価値
こうした取り組みが評価され、杜設計は「地産地消でつくる港町の家」でグッドデザイン賞を受賞した。受賞作となった住宅では、南三陸杉をはじめとする地域材を積極的に活用し、施主も家づくりのプロセスに深く関わっている。薪ストーブを中心に空間がゆるやかにつながる間取りや、港町ならではの景色を楽しめる大きな開口部など、住まい手との対話を重ねながら設計された住空間だ。
評価されたのは、完成した建物の美しさだけではない。地域材を使い、地域の人々が関わり、施主自身も体験として参加するという一連のプロセスそのものが、現代の家づくりに新しい価値を提示した点にある。大量生産・効率重視になりがちな住宅業界の中で、あえて手間をかけ、地域と向き合う姿勢が高く評価された。
受賞後は、顧客からの信頼感が高まっただけでなく、材木店や職人、地域の関係者からの反響も大きかったという。住宅が建つことで終わるのではなく、その後も地域との関係が続いていく。グッドデザイン賞は、杜設計が実践してきた家づくりの姿勢が、対外的にも認められた象徴的な出来事となった。
- 「地産地消2025年度グッドデザイン賞を受賞した「地産地消でつくる港町の家」の模型
- 薪ストーブ周りに秋保地域で採れる「秋保石」を採用
- 梁や柱には南三陸杉をふんだんに使用
木のマンションリノベと次世代へつなぐ職人の未来
杜設計では、新築住宅以外にリノベーション全般も手掛けている。その中で、現在、新たに力を入れているのが「木のマンションリノベーション」だ。新築住宅市場が縮小する中で、RC造のマンションを木で包み込み、戸建てのような心地よさを生み出すこの取り組みは、単なる事業拡大ではない。大工の技術を次の時代につなぐための、新しい選択肢でもある。
マンションリノベーションは、これまで職人の世界では、あまり技術を活かせない仕事として認識されていた。しかし杜設計は、あえてそこに高い技術力とデザイン性を持ち込み、大工が誇りを持って取り組める分野へと引き上げようとしている。木をふんだんに使い、細部までつくり込むことで、住まいの質を大きく向上させる。その価値を理解する層から、確かな支持も集まり始めている。
さらに「杜のこども工房」をはじめとしたワークショップやDIYサポートの取り組みを通じて、職人と住まい手が直接出会う場も生み出してきた。自分で手を入れながら住み続ける文化を育てることは、将来的なメンテナンス問題への備えにもつながる。「家をつくることは、次の世代に何をどうつないでいくかを考えることでもあります」と山本さんは語る。地域、住む人、職人が有機的に関わり続けられる関係性を築くこと。それこそが、杜設計が描く「地域の暮らしを支える家づくり」の未来像だ。

「杜のこども工房」の様子

「宮城で家づくりを考えたとき、思い浮かぶ存在になりたい」と語る
株式会社杜設計
住所:仙台市若林区鶴代町3-15CO_BA 2F





































