地域と時代に合った働き方を。清水建設が示すワークプレイスの未来図。

Vol.17
清水建設東北支店

1919年に東北地方で初めての工事を請け負って以降、東北の地に根ざした営業活動を展開している清水建設東北支店。このたび社屋の老朽化などを受けてオフィスビルの建て替え工事を行い、仙台の地域性に合わせた次世代型ワークプレイスへと大きな進化を遂げた。「シミズがつくる未来志向のオフィス」とは一体どのようなものなのか。2021年に完成したばかりの清水建設東北支店新社屋を取材した。

SDGsを体現する次世代型オフィスの誕生

自社の設計施工で建設を進め、生まれ変わった東北支店の新社屋。1971年に完成した2代目社屋の老朽化などを理由に建て替えが決定し、3代目社屋として2019年11月に着工、2021年2月に完成の日の目を見た。S造一部RC造・SRC造で建設されたオフィスビルは、地下1階、地上6階建ての延べ5588㎡。1階は開放的なエントランスや情報発信コーナー、2階は大小の会議室がずらりと並び、3~5階には各部門・幹部の執務室、6階は食堂と半屋外空間の「杜のテラス」を備える。スタイリッシュな印象を与える外壁のガラスは、仙台七夕まつりの「吹き流し」をイメージしたデザイン。12枚のガラススクリーンが街の景観に美しく溶け込み、機能面でも優れた仕様となっている。

東日本大震災から10年目となる2021年2月に完成。(撮影:㈱エスエス東北支店)

新社屋のコンセプトは、「人が活きる、新しいオフィス」。「シミズが創るSDGs(持続可能な開発目標)」を方針に、仙台の地域性を生かしながら、「省エネ」「健康」「防災」「働き方」の4つのテーマを志向して設計されている。

清水建設東北支店の新しいオフィスビルが目指すSDGsの5つの項目。これらのゴールを目指すことで、人と環境に優しいオフィス空間を実現している。
上席設計長の柄本純夫さん。清水建設が誇る技術力とノウハウを結集し、先端的なオフィス設計を行った。

仙台の地域性を生かした省エネルギー建築

新社屋の省エネルギーへの取り組みとしては大きく3つ、「地中熱利用システム」「躯体蓄熱放射システム」「床吹き出し空調システム」という技術を採用している。これらは、仙台の地域性を生かす画期的なシステムだ。

「仙台平野の地下には豊富な地下水が絶えず流れ続けており、その温度は1年を通して15〜6℃とほぼ一定。この地中熱を回収して冷暖房に活用するため、循環液を入れた配管を地中に埋没しました。地中100mまで配管を埋め込むための掘削はかなり大変でしたが、大幅な省エネにつながりました」と柄本さん。夏は埋め込んだ配管から地中に放熱して冷房に使い、冬は地中から採熱して暖房に使うことで、配管を通る循環水により床躯体の温度は年間を通じて24℃に保たれ、最終的に床面全体から空調空気がフロアに供給される仕組みだ。

水平コイル方式、浅層らせんコイル方式、ボアホール方式の3種類の採熱方式を活用した省エネルギー建築。

また、自然風を取り込めるダブルサッシにも注目したい。

「南側の外壁はダブルサッシになっていて、通常の窓ガラスの外側に熱線反射ガラスを取り付けています。天候に左右されず、内側のサッシを開けるだけで自然風を取り込むことが可能です。サッシは女性社員が片手でも簡単に開けられるよう、使いやすさも重視しました」と柄本さん。仙台特有の南東から吹く卓越風をつかまえる、優れた換気システムだ。各フロアには換気の目安を知らせてくれるランプが付いており、このランプが点灯すると内側のサッシを開けて空気の入れ替えを行う決まりになっている。

これらの省エネルギーの性能が評価され、「BELS認証」のNearly ZEB(Zero Energy Building)、そして「LEED認証」のプラチナを取得している。

外側はFIXサッシ、内側は開閉可能サッシになっていて、内側のサッシを開けると窓の横の隙間から自然通風を取り込むことができる。

災害に強い建物・インフラを目指す

防災に関する取り組みとして、大地震が多発する地域の特性も踏まえ、2階フロア下に12基の免震装置を設置。最大震度5強の地震が想定されており、免震装置で地盤と切り離すことで、2階より上層の大地震時の揺れを大きく低減する。

「東北で大きな地震が起きたとき、東北支店が震災対応拠点となるために、災害時の事業継続性を高める必要があります。柱頭免震装置以外にも、地震時に天井材の破損や落下を回避する“天井レス”も防災対策の一つ。従業員の安全を確保するとともに、いかに早く事業活動を復旧できるかというところもポイントになります」

災害に強いオフィスビルを造るため、柄本さんら設計チームは建物構造だけではなく、さまざまな災害リスクへの備えを組み込んだ。太陽光発電と自家発電設備による3日分の電源の確保や、7日分の水と食料、仮設資材などの備蓄を充実させるなど、東日本大震災の経験を生かし、平時から企業防災を強化する狙いがある。

社員の健康を守り、増進するオフィス環境

「会社に来るとどんどん健康になる、そんなオフィスを目指しました」と話す柄本さんが随所に取り入れたのは、健康増進を図るリフレッシュ空間だ。その最たるものが6階の「杜のテラス」だろう。広々とした食堂からつながる半屋外スペースは、新鮮な外の空気を吸い、景色を眺めることで気分転換ができる。当初の想定ではビアガーデンを行うなど社員同士の親睦を深める場としても使ってほしいと考えていたが、コロナ禍ということで現在は自粛中。代わりに社員たちが朝、始業前にラジオ体操を行うなど、健康維持のための場として活用されている。

3〜5階の執務室には秋田杉をふんだんに使ったブレイキングコーナーを設けているほか、打ち合わせスペースには東北産の山桜を使ったインテリアが配されている。これにより、社員は仕事の合間に自然のぬくもりを感じられ、心身のリラックス効果が期待できるという。同社はこれらの健康増進を図る取り組みで、「WELL認証(WELL Building StandardTM)」の取得を目指している。

秋田杉など木のインテリアで統一されたブレイキングコーナー。(撮影:㈱エスエス東北支店)

また、前段で紹介した地中熱を活用することで床全体が空調の役割を担う「床吹き出し空調システム」も、健康増進に寄与している。特殊加工したフロアカーペット全体から供給される空調空気が床面から徐々に貯まっていき、最終的には天井面から排気される仕組みだ。一方向の気流しか発生しないため、常にクリーンな空気がフロア内を流れ、感染リスクの低減が期待できる。

ニューノーマルなワークプレイスで生産性を向上

昨今あらゆる場面で話題に上る「働き方」の面でも、清水建設ならではの工夫が光る。柄本さんは、「縦・横のつながり」を念頭に置いた空間づくりを心がけたという。

「執務室は柱のない平面構成にすることで、デスクレイアウトが容易な可変性の高いオフィスとしています。フロアの違う社員同士でもコミュニケーションが取りやすいよう、上下階をつなぐオープンな階段を設けました。階段の踊り場からは執務室を一望でき、誰が在席しているのかがすぐにわかり、声をかけやすくなりますよね。縦・横のつながりをつくることで、ハード・ソフトの両面でさまざまなメリットが生まれます」

さらに、時代の変化への対応として、フロアごとの多様な打ち合わせスペースも特徴的だ。4Fの設計・設備・見積もり部門フロアは、図面を広げやすいように大きなテーブルを備えており、3Fの管理・営業部門フロアは打ち合わせに適したモニター付きの円形ミーティング席を備える。加えて、各階に感染症対策として独立型ウェブ会議用小ブースなども設け、新しい働き方にも柔軟に対応している。

地域、人、時代とともに成長していくオフィス

「新社屋を建て替えるにあたって、トイレの出入口の位置や、どんな打ち合わせスペースがあったら便利かなど、実際にオフィスを使う社員の皆さんの意見を積極的に取り入れるようにしました。また、竣工に合わせたパンフレット制作や新聞広告などのプロモーションも、社員が主体となって行うことで、新しいオフィスへの理解と愛着を醸成できたと思っています」

新社屋として歩み出してまだ1年ほどだが、建設前から積極的に情報共有を行っていたこともあり、社員からの評判は上々だと大場さんは語る。「杜のテラス」やブレイキングコーナーについても、社員自らの提案で想定以上にさまざまな活用がされているという。

時代とともに変化する価値観、働き方を柔軟に受け入れ、地域の特性を生かしたニューノーマルなオフィス環境を整えた新社屋建設は、清水建設の大きな挑戦の一つである。その一方で、地域に根ざして成長を続ける会社として、取り組むべき課題にいち早く対応しているとも言える。

「SDGsは『誰一人取り残さない』社会を目指しており、私たちはオフィスにおいてその考えを実現したいと考えています。オフィスを建設して終わりではなく、これから運用していく中で、社員、そして地域にとってよりよいものへと進化していけるように努めていきます」と金子さん。

同社が目指すワークプレイスの未来に期待したい。

左から、上席設計長の柄本さん、総務部の金子さん、庶務グループ長の大場さん。

清水建設東北支店
住所:宮城県仙台市青葉区木町通1-4-7
TEL:022-267-9111

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