【シリーズ掲載Vol.2】元・世界最高峰の経営大学院教授に学ぶ「ケーススタディ」。 リーダーシップと、より大きな問題解決力を養うために

Vol.41
仙台スタートアップエコシステム推進協議会

「仙台・東北から世界へ、チャレンジする貴方を、応援します。」をキャッチフレーズに、若者をグローバルに活躍できるスタートアップ人材として育成するプログラム『SENDAI GLOBAL STARTUP CAMPUS』(以下SGSC)。仙台市が主催し、3つのステージから構成されるこのプログラムにおいて、2023年11月17日、Stage2にあたる「リーダーシッププログラム」の特別セッションが行われた。今回の特別セッションは、世界最高峰の経営大学院であるハーバード・ビジネススクール(以下HBS)において、2023年7月まで経営学教授として教鞭を執った竹内弘高先生をお招きし、未来のスタートアップ人材とディスカッションするという内容。仙台スタートアップエコシステム推進協議会シリーズ記事Vol.2では、この「リーダーシッププログラム」における特別セッションの模様をお伝えする。

理論の学習だけでは得られない学びを。それがHBS流

Stage2「リーダーシッププログラム」のケーススタディが開講。

元・HBS教授の竹内弘高先生。ケーススタディは始めから終わりまで英語を用いて行われる。

今回の「特別セッション」は、ケーススタディ・スタイルにて、竹内弘高先生のもとで行われた。受講生に世界最高レベルの経営理論の学びを体験させるため、HBS で実際に活用されている、アメリカのバイオテクノロジー企業『Moderna(モデルナ)』のケースを用いたプログラムだった。 ケーススタディは一言でいうと「事例研究」である。ビジネススクールの教育においては、実際に起きた多様な事例(ケース)を教材とし、最適な解決方法を思考する訓練のことを指す。世界最高峰のHBSの授業はすべて、このケーススタディにて行われるそうだ。ケーススタディを行うことによって、理論の学習だけでは得られない、現実の問題解決に結びつけるスキルを養うことができる。また、ケースの主人公として考える疑似体験により、問題解決力だけでなく、分析力や洞察力、論理的思考力、戦略構築力など、経営者やリーダーに必要な能力を養成することができる。 つまり、Stage2「リーダーシッププログラム」の目的でもある「リーダーとしての資質を身につけ、磨き上げていくという体験」を、世界最高の先生のもとで果たせるのだ。受講生にとって、滅多にないチャンスであることは言うまでもない。

スピーディで臨場感のあふれるディスカッション。前向きなエネルギーが交流する

受講生たちから活発に出される意見。竹内先生の表情にも笑顔が。

竹内先生は受講生たちと同じ目線を持った上で真剣に向き合う。

ケースの主人公は、『Moderna(モデルナ)』のCEO であるStephane Bancel(ステファン・バンセル)、HBS の卒業生でもある。新型コロナワクチンでは日本国内でもその名が広く知れ渡った『Moderna(モデルナ)』だが、同社はファイザーや武田薬品のような大手製薬会社ではなく、ましてバイオベンチャーの1 社であり、実は設立以来10 年以上、これといった大きな実績も出ていない企業だった。そんな『Moderna(モデルナ)』が、なぜ大手製薬会社にも負けないスピードで、新型コロナワクチンの開発に成功し、世界中に提供することができたか。今回のケーススタディにおけるディスカッションは、その要因を探るところからスタートした。 竹内先生から「一言でいうと何が要因だと思う?」という質問が受講生に投げかけられる。受講生からは、「Decision(意思決定)」、「Goal(目標)」、「Reaction(対応力)」、「Change(変化)」、「Efficiency(効率性)」、「Digital(デジタル化)」など、実に様々な意見が出されていった。受講生に対し、深く考え込まず、むしろテンポ良く色々な意見を促していく竹内先生と、それに応える受講生たち。そして、先生も受講生たちも、その場にいる全員が一つ一つの意見を決して否定することなく、むしろ全てが最終的な「答え」を出すための重要な要素になりうるとして、真剣に耳を傾け合っている。スピーディで臨場感あふれるケーススタディの現場には、じっくり腰を据えて取り組むような理論の学習とは一線を画す、前向きなエネルギーの交流があった。 ディスカッションはしばらく続き、やがて竹内先生によって導き出された最終的な結論は、「Platform(プラットフォーム)」だった。mRNA(メッセンジャーRNA。DNAに保持されている遺伝情報のコピー)を軸とした、スピーディーに対応するプラットフォームを『Moderna(モデルナ)』は持っていた。だからこそ、新型コロナという新しい未知のウイルスが現れた際、スピーディかつスムーズに対応することができたのだろうと。同時に、それだけで成功できたかというと、そうでもない。プラットフォームに加えて、「Luck(運)」もあったのだろうと竹内先生。未知なるワクチンに最適な配列がすぐに見つかったのは、運の要素も大きかったはずだ、と推測したのだった。そして、竹内先生はさらに言葉を付け加えた上で、受講生たちへのメッセージに落とし込む。 「それまでの相当な“準備”がなければ、運も得られなかったはず。この“準備”こそが、経営者、特にスタートアップにとっては重要だ」と。

受講生に対し、スタートアップとして「将来、役に立つこと」を教えたい

受講生たちはいつの間にか緊張が解け、ディスカッションに夢中になっている。

続いて竹内先生からは、『Moderna(モデルナ)』と他の大手製薬会社との組織的な差は何か、という問いも投げかけられた。この問いに対しても、受講生からさまざまな意見が出る。 「小さい組織だからこそコミュニケーションが密で、情報共有も早いこと」。 「従業員たちのマインドセットがよりオープンなこと(変化に柔軟)」。 「失敗を恐れないマインドがある、あるいは失敗に対する許容度が高いこと(大企業は1 つの失敗が出世に響くことがある)」。 「大きな夢を持ち、その落とし込みから今すべき行動を考えられること」。 やがて竹内先生から、この問いには特定の「正解」がなく、むしろどの意見も重要であることが明かされる。そして、これらの要素こそが、「皆さんが将来、スタートアップとして大企業と対峙していく際に、必ず役に立ちますよ」とも。受講生たちは、新たな気づき・学びを得たことで充実した表情を見せていた。

結論のない問いに対し、どんな答えを出すか。何を学ぶのか。すべては自分次第

『Moderna(モデルナ)』CEO・ステファン・バンセル氏のインタビュービデオを視聴。

このStage2を経て、いよいよ次は最終ステージの「海外派遣プログラム」へ。

その後は、『Moderna(モデルナ)』が成功した大きなポイントとして欠かせない、「DX」についての議論だ。その最後、竹内先生からは以下の質問が出された。 「日本の産官学において、他国と比べDXの成功の度合いを5 段階で評価とすれば、皆さんは何点を付けますか?」 「真ん中の「3」は除いてください」と。 受講生たちは、点数を一斉に発表する。成功していることを示す「5」「4」は15 名中3 名のみだ。その3名の受講生から、「1」「2」と評価した他の受講生を説得するような理由を引き出そうとする竹内先生。最終的には説得力のある意見は出なかったが、今回、受講生には大学生・大学院生が多かったことから、日米の大学における卒業後のつながり(米国の大学では、卒業後も一生、大学在籍時のメールアドレスが使えるため、つながりを継続することができる、など)を例として、日本におけるDXの推進はまだまだこれから、との考えを示すのだった。 ケーススタディも終わりが近づく。最後に、ステファン・バンセル氏のインタビュービデオを視聴。受講生たちは、バンセル氏の言葉からも多くの学びを得ているようだった。 「CEOとは一番賢いのではなく、未来を知っている訳でもない。勤続年数や民族なども関係なく、“最高のアイディアが勝つ”という文化こそが最も重要だ」。 ケーススタディには常に「結論」がない。一連の議論の中で、受講生一人ひとりが何を学ぶか。それも完全に自分次第なのである。


◎本記事はシリーズにて掲載します。次回Vol.3をご期待ください。
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