仙台の中⼼から、世界の中⼼を⽬指して。共創請負⼈がYUI NOSで実践する“⼼地のよいおせっかい”とは。

Vol.50
株式会社ATOMica

仙台朝市のすぐそばのアーバンネット仙台中央ビルに、2024 年3⽉、賑わい・共創拠点 YUI NOS が誕⽣した。
「スタートアップ⽀援」「次世代研究拠点連携」「魅⼒的な働く環境」「賑わいと回遊性」という「四つの柱」をコンセプトとして掲げる YUI NOSは、仙台という街でどんな存在になっていくのか。
運営を任されたのは、2019 年の設⽴以降、全国累計37施設でソーシャルコワーキング®事業を展開してきた株式会社ATOMica(アトミカ)だ。いわば、「共創請負⼈」。
そんなATOMicaの仙台拠点⻑・鈴⽊郁⽃さんとコミュニティリード・池⽥直美さんに、YUI NOSが持つ可能性とポテンシャルについて伺った。

写真:川澄・小林研二写真事務所

仙台駅前の新たなシンボル『YUI NOS』とATOMicaの挑戦

アーバンネット仙台中央ビルは、仙台市が主導した「せんだい都⼼再構築プロジェクト」の第⼀号案件として、NTT 都市開発が所有する⾼層オフィスビルだ。新しい仙台の象徴にもなりうるYUI NOSの運営先として、コワーク拠点の運営実績が豊富だったATOMicaに⽩⽻の⽮が⽴った。

株式会社ATOMica は、コワーキング施設の企画・運営を主な業務としており、北は岩手県盛岡市、南は沖縄県那覇市と全国に渡って施設をゼロからプロデュースしている。⼈々に出会いの場を提供し「頼り頼られる関係性を増やす」ことをミッションとして掲げており、これまで⼈と⼈とを数多く結びつけてきた。

そんな百戦錬磨のATOMicaだがYUI NOSの運営に参画するのは覚悟の要ることだったという。これまでに扱ってきた拠点の中でも「⾶び抜けて⼤きかった」ことが理由だと、仙台拠点⻑の鈴⽊郁⽃さんは話した。

「このプロジェクトに参画した当時、ATOMicaはまだ社員が15名だったので、これだけ⼤きなプロジェクトに参加するとい うのはハードルも⾼かったのですが、社運を賭ける……ではないですけれど、社内外からの注⽬が⾼まる中、運営に携わることになりました」

ご⾃⾝も起業家として活躍されていた経験がある仙台拠点⻑の鈴⽊さん。

アーバンネット仙台中央ビルの1階から4階部分に⼊る共創施設・YUI NOSは、コワーキングスペースやシェアオフィス、ミーティングルームなどのワークスペースに加え、仙台市のスタートアップ⽀援拠点である「仙台スタートアップスタジオ」 や、東北⼤学⻘葉⼭キャンパスで運⽤が始まった次世代放射光施設「NanoTerasu」と連携した分析室も設置されるなど、その⽤途は多岐に渡る。それもあり、利⽤者の属性はフリーランスから、学⽣、会社員、スタートアップ⽀援者などさまざまで、近くに住む⼈が何気なく寄っていくこともあるそう。

オープンしてから半年が経ち、これまでのドロップイン(⼀⽇利⽤)利⽤者は延べ 600 名を超えた。施設の認知度は順調に上がってきている。それには ATOMica のスタッフの細やかな⼼配りが⼤きく寄与している。

「コワーキング」ってなんだろう?

「オープンした当初、コワーキング、コワークという⾔葉はまだ仙台で浸透しておらず、“コワーキン グってなんだろう?”と疑問を持たれた⽅もたくさんいました」と話すのはコミュニティリードの池⽥さんだ。「コワーク」とは、「異なるバックグラウンドを持つ⼈々が共 同で働くこと(Co-work)」を意味する造語だ。響きから連想されがちな「個ワーク」とは真逆の意味と⾔ってもいい。

YUI NOSという施設の名称は、漢字の『結』と『巣』に由来する。⼈と⼈とを結びつける場所になってほしいというおもいから名付けられた。そのためコワーキングスペースには、池⽥さんをはじめとする⼈々の出会いや交流をサポートするコミュニティリードが常駐している。

「利⽤者様とよく話をして信頼関係を築き、どんな活動をしたいかなどの WISH(願い)や、どんな⼈と出会いたいかなどの KNOT(出会い)を⽇ごろのやり取りの中で引き出し、“⼼地よいおせっかい”を焼くことを⼤切にしています。今では県外から訪れる⽅もいらっしゃるんです」と池⽥さん。

コミュニティ・リードの池⽥さんは、東京から U ターンして ATOMica に⼊社した。

「旅の途中で知り合いに聞いたとか、仙台市の職員の⽅に教えてもらったとか、そういった感じでふらっと訪れる⽅も多いです。皆様に広めていただいています」

⼀度訪れた⼈の定着率が⾼いのも特徴だと、鈴⽊さんは⼒強く話す。「良い体験を提供できているんだなと⾃信になります。いろんな⽅が集まってできた多様性の中でエコシステムが⾃然と⽣まれるというのが我々の⽬指すところなので、今の状態はすごく良いです」

YUI NOSを⽀える「4つの柱」

YUI NOSは「スタートアップ⽀援」「次世代研究拠点連携」「魅⼒的な働く環境」「賑 わいと回遊性」という「4つの柱」をコンセプトに運営されている。中でもATOMicaが⼀番強みを発揮できるのは「魅⼒的な働く環境」「賑わいと回遊性」という点だと鈴⽊さんはいう。「利⽤者様に⼼地よい体験を提供するのはもちろんですが、それだけではなく仙台・東北地域を活性化するための中⼼的な役割を担いたいです。そのために我々が積極的に利⽤者さんとコミュニケーションを取ったり、イベントを⾏って利⽤者さん同⼠が繋がるきっかけを提供したり、イノベーションがここからたくさん⽣まれていくような提案をしていきたいです」

7⽉ 9⽇にオープンしたばかりの分析室の運⽤を基軸に据える「次世代研究拠点連携」についても伺った。

東北⼤学の⻘葉⼭キャンパスの NanoTerasu と連携し、「遠隔で現地の状況把握・操作・データの取得ができる」という。すでに⼤⼿企業の利⽤が始まっているほか、仙台市の後押しもあり、中⼩企業やスタートアップ企業が低負担で試すこともできるようになる⾒通しだ。今後は研究者や⼤学関係者の出⼊りが増え、新しい刺激が加わるだろう。

開放感あふれるコワーキングスペースは、杜の都を意識した⾃然が多く使われてい る。(写真:川澄・小林研二写真事務所)

まるでシリコンバレー。YUI NOSが持つ果てしないポテンシャルとは

YUI NOS を⽀える⼀番⼤きな柱が「スタートアップ⽀援」だ。

コワーキングスペースの中に市のスタートアップ⽀援窓口が設置されているという形態は珍しく、ATOMicaが運営する他の拠点にはないところだと⼆⼈はいう。 ⾏政主導のスタートアップ支援拠点があること⾃体が強烈な個性であるが、さらに池⽥さんは「仙台は産学官⺠の距離がすごく近いんです」と分析した。

確かに施設全体を⾒てみると、仙台市が運営する「仙台スタートアップスタジオ」、NanoTerasuと連携する「YUI NOSの分析室」、コワーキングスペースに集う⼈々もいて、 さらにビルの所有はNTT 都市開発と、4 フロアの中に産学官⺠が揃っている。

それだけにはとどまらず、「先ほどシェアオフィスの内覧のご案内をしたのですが、その時に“YUI NOSは⼀つの国みたいですね”と⾔われたんです」と池⽥さんは笑った。

「ベンチャー・キャピタルやスタートアップ⽀援者の⽅もいらっしゃるので、産学官に加え“資金調達支援機能”が揃っている。国……というと⼤袈裟ですけど、本当に可能性に溢れているなと思います」

鈴⽊さんも「確かに」と頷いた後、⾃分の経験を語った。

「私はシリコンバレーで働いていたのですが、サンフランシスコには様々な移⺠や研究者や学⽣がいて、ベンチャーキャピタル、⽀援者もいる。エコシステムがぎゅっとあの場所に濃縮されているんです。その縮図がYUI NOSにもあるんじゃないかと感じていて。イノベーションは多様性のカオスの中から⽣まれるので、いろんな属性の利⽤者さん同⼠がここで交わることによって化学反応が起き、新しいものが創られるのではないかという期待があります」

Apple、Google、Microsoft など世界的⼤企業が誕⽣したシリコンバレーも、多くの⼈が互いを巻き込み合いながら発展した。その場所になぞらえても遜⾊ないほど、YUI NOSが持つポテンシャルは⾼い。

普段何気なく過ごしている仙台が、イノベーションの⼤躍進によって⽇本、いや、世界有数の技術地域に成⻑する。そんな⻘写真を描かずにはいられなかった。

イノベーションスペースは憩いの場だけではなく、イベント会場としても活⽤され る。(写真:川澄・小林研二写真事務所)

いつでもここに帰っておいで。「若者たちのおじさん、おばさん」を⽬指して

シリコンバレーならぬ“ユイコンバレー”の創出には、新しい技術の開発が不可⽋。それを⽀える⼤きな⼒のひとつが、仙台各地の教育機関に在籍する学⽣たちだ。

YUI NOSでは学⽣向けのイベントも多く開催されている。その中のひとつが株式会社プロジェクト地域活性との共催による『社名を伏せた交流会』だ。社会⼈側の参加者が⾃分の所属を隠した状態で学⽣と交流し、就職活動や仕事の実情を本⾳で語り合うというユニークなイベントだ。参加者からも好評を博したようで、今後の開催も視野に⼊っているとのことだ。

「YUI NOS に集まる学⽣さんは本当にエネルギーに満ち溢れているんです。もう起業されていたり、仲間を集めていたり、場づくりをしていたり。私の⽅がいつも勉強させてもらっています」と池⽥さん。

その反⾯、就職を機に仙台を離れてしまう学⽣も多い。学⽣をいかに地域に引き⽌めるかということは仙台や東北のみならず社会全体の課題となっているが、ATOMicaの⼆⼈は違った⽬線を持っていた。

「短期的に⾒たら、学⽣が就職で仙台を離れてしまうのはもったいなく感じますが、 もっと⻑期的なスパンで考えると、“YUI NOSで会ったあの⼈たちと仕事をしたい”と いうモチベーションで 10 年後に仙台へ帰ってきてくれたら、それも私たちが考える成功の⼀つだなと思います」と鈴⽊さんが⾔えば、池⽥さんも「仙台を出た若者が気軽に戻ってこられる場所でありたいなと思います。近くを通りがかったら“遊びに来たよー!”と顔を出してもらえるような。仙台のおじさんおばさんみたいな存在になりたいですね」と答えた。

また、若者が再び戻ってきたいと思える場所づくりのために必要なことは?そう問いかけると、⼆⼈は「⾃分たちが楽しく仕事をすること」だと⼝を揃えた。

「楽しんで仕事をしている⼈を応援することで、仙台からでも⾃分のやりたいことを発信できるんだよとアピールをする。そのためには⾃分たちが仕事を楽しんでいないと」

YUI NOSという共創のための理想的な空間で、鈴⽊さん、池⽥さんをはじめとするコミュニティ・リーダーたちが、利⽤者の出会いと願いを全⼒でサポートをしてくれる。それが巡り巡って仙台の未来を明るくすることにつながるならば、これも ATOMica が⽬指すひとつのエコシステムと呼べるのではないだろうか。

そのシステムを体感したい⽅は、ぜひ⾜を運んでみてほしい。不安があっても⼤丈 夫。頼もしいコミュニティリーダーたちが、きっと⼼地のよいおせっかいを焼いてくれるだろう。

仙台の中⼼で⽣まれた出会いが結びついて、全世界の中⼼に⾶び出していく。そんな瞬間の⾜⾳が、仙台朝市の活気に乗って、もうすぐ聞こえる予感がした。

YUI NOS
住所:宮城県仙台市青葉区中央4-4-19
TEL:022-738-8305

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