【シリーズ掲載Vol.1】仙台・東北から世界へ!若きスタートアップへの挑戦が地域、社会、そして人生を変える。

Vol.35
仙台スタートアップ・エコシステム推進協議会

政府では2022年をスタートアップ創出元年として位置づけ、むこう5年で10倍増を視野に入れた「スタートアップ育成5か年計画」を策定。これにより、今、全国各地でスタートアップを支援する機運が高まっている。一方、仙台市では政府の5か年計画に先立ち、「仙台・東北から世界を変える」べく、世界中からソーシャルイノベーターが集う都市への成長を目指し、新たなスタートアップを生む動きが既に活発化していた。その推進役となっているのは、仙台市経済局イノベーション推進部スタートアップ支援課をはじめ地域の産学官金12団体を中心とした『仙台スタートアップ・エコシステム推進協議会』である(2019年12月設立)。スタートアップ支援課長の酒井 宏二(さかい こうじ)さんに、仙台のスタートアップ戦略について話を聞いた。  

震災後に続々と誕生した、起業家の方々を本格的に後押しするために

「課題先進地の東北だからこそスタートアップ支援が必要」と話す仙台市スタートアップ支援課長の酒井さん。

仙台スタートアップ・エコシステム推進協議会の「エコシステム」とは、動植物の食物連鎖や物資循環といった生物群の循環系という元の意味から転化した概念だ。同協議会では、「新しい価値を持続的に産み出すスタートアップ・エコシステムを産官学金労言で構築し、社会課題解決に挑戦する人々と伴走して仙台・東北における地域課題の解決と地域経済の活性化を実現する」ことをミッションとしている。
「ここ仙台・東北では、東日本大震災をきっかけに、復興のため、地域社会のために強い志を持って起業する方々が数多く生まれ、仙台市としてもその起業家の方々を後押ししようということで、起業支援に本格的に取り組み始めました。そして、取り組みを進める中で、社会的・経済的インパクトを創出するスタートアップを生み出す仕組みである”スタートアップ・エコシステム”の形成を加速させる必要があると考え、地域の産学官金12団体が発起人となり、協議会の設立に至りました」と酒井さん。
震災を機に世界中から注目されることとなった東北では、ローカルからグローバルに、世界をより良くしていこうというスタートアップが誕生している。彼らが未だ根強く残る地域の課題解決を通し、人々の生活に役立つイノベーションや経済的なインパクトを生み出していくことに、大きな期待が寄せられている。 また、東北でスタートアップを支援する意義について、酒井さんは話を続けてくれた。
「東北は課題先進地。最も人口減少が進んでいて、社会課題が集積・顕在化している地域なのです。しかし逆に、起業する方々にとって課題のタネがたくさんあるのは、それだけチャンスがあるということ。課題先進地の仙台・東北だからこそ、スタートアップ支援が必要だと考えています」。
エコシステムがうまく機能し、スタートアップが次々と誕生している地域では、経済の成長や雇用が多く生まれているという。それだけに、仙台スタートアップ・エコシステム推進協議会が東北で果たすべき使命は大きい。

事業戦略のポイント① 「大学の研究シーズを活かすこと」

東北大学で行われた人材育成プログラム『SENDAI Global Startup Campus (SGSC)』の説明会。郡和子仙台市長もあいさつ。

協議会が策定した「仙台スタートアップ戦略」のポイントは、「この地域にある二つの強みを活かすこと」だと話す酒井さん。
「一つは、東北大学をはじめとした大学の研究シーズです。これはディープテックとも呼ばれるもので、東北の大学では、科学的な発見や革新的な技術に基づいた、より大きな問題解決力によって世界に大きな影響を与えていく取り組みが活発です。このディープテックを導入したスタートアップが成長する可能性を大いに秘めているため、この地域の強みとして捉え、活かしていきたいと考えています」。
酒井さんの言葉にある、大学の研究シーズ活用という戦略をカタチにした取り組みの一つが、人材育成プログラム『SENDAI Global Startup Campus (SGSC)』である。仙台・東北の若者をグローバルに活躍するスタートアップ人材として育成する、仙台市のプログラムだ。 中でも注目したいのが、アドバイザーとしてアサインされている方たちの豪華な顔ぶれ。米・ハーバード大学の経営大学院であり、最も伝統的なビジネススクールのひとつでもあるハーバード・ビジネススクール(HBS)教授の竹内 弘高氏や、『ポケモンGO』のヒットで有名なモバイルアプリや位置情報ゲームなどを制作する米・ナイアンティック社CPO・河合 敬一氏らが名を連ねる。河合氏については、仙台市出身であることから氏のアドバイスがスタートアップを志す若者たちに大きな影響力をもたらすことは想像に難くない。
「3つのステージから構成される本プログラムには、さまざまなワクワクを取り入れています。参加メンバーのモチベーション維持は非常に重要なポイントだと考えています。そこで、世界最高峰のアドバイザーやメンターに協力いただき、“自分はすごい人たちと一緒に社会を、世界を変えようとしている”というワクワクとやりがいを、参加メンバーには持ち続けてもらいたいのです」。
『SENDAI Global Startup Campus (SGSC)』は、7〜9月にかけて行われる第1ステージ「アントレプレナーシッププログラム」がスタートしている。欧米の最先端のアントレプレナーシップ関連の人気コースを自ら選択し、仲間やメンターたちと共に学び合いながら修了を目指していくというものだ。定員は100名。 そこから絞られた20名のメンバーで、ハーバード・ビジネススクール(HBS)の人気オンラインプログラムを履修するなどの内容で9〜10月に行われる第2ステージ「リーダーシッププログラム」と、その後の第3ステージ「海外派遣プログラム」を修了し、プログラムを卒業することになる。ハードな面も沢山あるプログラムだが、それ以上のワクワクがあることは間違いないだろう。

事業戦略のポイント② 「社会課題解決のマインド」

震災を経験したからこそ、この地域には社会課題解決のマインドが息づく。

『SENDAI Global Startup Campus (SGSC)』キックオフイベントの様子。参加者の表情はチャレンジ精神に満ちている。

さて、「仙台スタートアップ戦略」におけるもう一つのポイントについて、酒井さんの話は続く。
「もう一つの強みは、やはり東日本大震災を経験したことで、この東北には社会課題を解決しようというマインドが息づいていることです。あの大震災によって、自分の人生とはなんなのかを見つめ直した人たちが沢山いました。そしてそこから、一度しかない人生でやるべきことをやりきろうというマインドがこの地域に芽生え、触発を生み、広がっていったのです」。
震災というあまりに辛い経験をした東北の人たち。その人たちが自分らしく、社会の発展のために世界規模で羽ばたく姿が、真の復興であり、東北の目指すべき未来像なのかもしれない。酒井さんの言葉と行動から感じられるのは、スタートアップ支援を通じて「東北への熱いおもい」をカタチにしようという強い意志である。

Life is your Time. この地域から若いチャレンジの波を!

「仙台・東北から世界へ」を合言葉に、若者たちが立ち上がる。

「チャレンジをする若者たちの存在が、この地域には必要。仙台市も全力で応援します!」と酒井さん。

東北への熱いおもいを胸に、事業を推進する酒井さん。最後に、事業のキーワードであり、仙台・東北の若者たちへのメッセージでもある「Life is your Time」の意味について訊ねた。
「Life is your Timeとは、“どう生きるかはあなた次第”という意味。これは、震災を経験し、課題先進地でもある東北だからこそ大きな意味を持つ、若い人たちに向けたメッセージなのです。感性豊かな時期にチャレンジをする若者たちの存在が、この地域には必要だと思っています。そして何より、挑戦がその人の人生を何倍にも充実させていくということを、伝えていきたいですね」。
酒井さんはジェトロ(日本貿易振興機構)への派遣時代、米・シリコンバレーに駐在していた経歴を持つ。チャレンジが人生を変え、充実させることをよく知っているのだ。だからこそ、今とこれからを生きる若者たちへ伝えたいおもいがある。
「仙台・東北から世界へ、チャレンジする貴方を、応援します」。仙台・東北のスタートアップ・エコシステムと、新しいチャレンジへと踏み出す若者たちが、今、未来にむかって動き出す。


◎本記事はシリーズにて掲載します。次回Vol.2をご期待ください。
仙台スタートアップ・エコシステム推進協議会
住所:宮城県仙台市青葉区国分町3丁目6-1 仙台パークビル9階 仙台市経済局スタートアップ支援課内
TEL:022-214-8278

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