
「アニメーターの道を開け!」MAPPA仙台スタジオの挑戦。
Vol.63
株式会社MAPPA 仙台スタジオ
「アニメーションを作りたいなら東京に行かないと…」そんな業界の当たり前が変わってきた。制作工程のアナログからフルデジタル化への流れで、地方にいても制作が可能となったことが理由だ。そんな中、「地方でアニメーターを目指す若者の受け皿になろう」と、東京以外にスタジオを構える会社も増えている。株式会社MAPPAもそうした制作スタジオの一つ。仙台スタジオ開設時の思いや担う役割、未来への挑戦について、同社作画・演出部管理を担当する芦野義人さんが語ってくれた。

仙台スタジオの作画・演出部管理を担当する芦野義人さん。3年前、MAPPAに入社。
東北でアニメーターを目指す若者たちの受け皿に
「地元でアニメ制作の仕事がしたい!」「東京では働けないけど諦めきれない…」。
そんな地方でアニメーターを目指す若者たちの夢を後押しするように、2018年に株式会社MAPPAの「仙台スタジオ」は開設した。
MAPPAは、会長の丸山正雄さんが2011年に設立したアニメ制作スタジオ。丸山さんは虫プロダクションを経て、マッドハウスの創設に関わるなど、日本アニメ創成期から活躍するアニメプロデューサーとして知られている。
2012年の『坂道のアポロン』以降、MAPPAは『呪術廻戦』『進撃の巨人 The Final Season』『チェンソーマン』といった熱心なファンを持つ漫画原作作品や、国内外で高い評価を得た『この世界の片隅に』など、多くのテレビシリーズや劇場作品を制作してきた。それらの作品に魅了されアニメの仕事に憧れる若い世代や、まさに今アニメ制作を学んでいる学生たちにとって、「仙台に夢を叶える場所がある」ことの意味は想像以上に大きい。
「地方にもアニメ制作を学べる専門学校はあります。ただ、アニメの仕事がしたい人は東京に出るか、無理なら諦めるしかない状況だったんです。そんな現状を変えたかったことと、地元でアニメーターとして働きたいという東北の若者たちの受け皿になろうという思いが、仙台にスタジオを置いた理由の一つです」と作画・演出部管理の芦野義人さん。
もう一つ、丸山さんが塩竈市出身だったことも関係している。丸山さんはスタジオ開設前から度々、トークイベントや作品上映会、講演会などに参加するため塩竈や仙台を訪れていた。
「塩竈と仙台は位置的に近く、スタジオを立ち上げる際のイメージがつきやすかったようです。仙台スタジオがある場所は地下鉄やバス、電車などの交通機関も整備されているので心配もいりません」と話す。
仙台スタジオは、地元採用数名を含む13名でのスタートだった。主に動画と仕上げの工程を担当する。
「アニメの制作工程は、まず完成した台本をもとに、各シーンの設計図となる絵コンテを起こします。この絵コンテをもとに絵を描きますが、これは原画と動画の仕事に分かれます。原画担当は、アニメーションの動きのなかで大事なポイントだけを描き、動画担当は原画と原画の間の動きをつなぐ絵を描いて補足していきます。仙台スタジオではこの動画と、描き上がった絵に色を塗る仕上げという作業を主に担当しています。仕上げの後は、映像化するために撮影というチームに素材を渡して、映像化したものを編集してアニメーションが完成するわけです」。
通常、動画と仕上げは別の担当者が行うことが多いが、仙台スタジオはデジタル動画を取り入れることで、仕上げ工程までの一貫作業を可能にした。新人アニメーターが早い段階から現場に入り、実務経験を積める環境を整えているのだという。
「動画と仕上げって、実はアニメーターの仕事の入口なんです。動画や仕上げの仕事をしながら、原画もやってみたいとか、動画のチェックを行う動画検査をできるようになりたいとか、演出を目指したいとか、希望を持ってキャリアの幅を広げていってほしいですね」。

デジタル化によって、若手アニメーターの早期活躍も可能になった。
良質な作品は良いコミュニケーションから生まれる
アニメ制作というのは、ある意味チーム戦です。天才アニメーターでも一人で完成させることは無理ですし、優秀な人がたくさんいてもコミュニケーションが取れなければ良い作品にはなりません。関わる人たちが演出意図を理解し、意思疎通を図りながらつくっていくことが大事なんです。インターネットの発達でWeb会議が可能となり、同じ空間にいなくても顔をつき合わせて会話ができるようになりました」。
アニメ制作の工程が従来の紙に描くアナログからデジタルに変化してきたことも、アニメスタジオの地方進出と関係している。
「デジタル化によって、作品をデータで管理できるようになりました。素材のやり取りもネット上で行うため、10年前よりも作業がスムーズになってきていますね。紙をスキャンしてデータにしたり、ペンタブレットで絵を描いたり。物理的に素材を動かさなくても作業が成立するので、仙台でも問題なく働き続けることができます」。
現在、芦野さんは東京と仙台のニ拠点生活。東京本社でクリエイターのマネジメントを行いつつ、週に数回は仙台へ赴き、スタジオの運営などを担当。アニメーターの体調管理には特に気をつけているという。
「アニメ制作スタジオの管理は、スポーツトレーナーと芸能マネージャーの中間くらいのイメージでしょうか…。食事はいつ取りましたか、体調はどうですかとか、どんな仕事を受けていてどんな状況なのかなど、声を掛けて話を聞いてクリエイターが働きやすいように調整する仕事です」。

仙台スタジオはフルデジタル対応。入社時から液晶ペンタブレットを使いこなせる人がほとんど。
実践を通して技術を学び、技術を磨く人材育成
MAPPA作品の人気の理由に、クオリティの高さを挙げる人は多い。その確かなクオリティを支えるアニメーターたちは、手厚い社員研修によって育成されている。
「仙台スタジオでは研修期間が3カ月あり、その後は約1年間、先輩の指導を受けながら仕事をします。2年目には独り立ちして作業に従事し、3年目に新人を教育する側に回るというスタイルを取っています。実務を通して技術を学ぶ、技術を磨くということを延々と続けるんです。教わったことを実践する、実践したことを若い人たちに教える、これを1つのサイクルとして教育していきます」。
アニメ制作スタジオ、しかも人気作品を次々と世に送り出すような会社に入ることは容易ではないかもしれない。しかし夢を諦めず挑戦しようとする若者たちだからこそ、求める人材像はその姿勢や心掛けを重視する。
「アニメーション制作は技術がどんどん進化し、新しい表現方法も増えています。ここまでできれば十分というラインはなく、ずっと学び続ける仕事です。同じ仕事をしていると、似たようなものを作ってしまうことが多くなりますよね。アウトプットはインプットの量と質によるところが大きいので、どんな体験をして、どれだけ心を動かされたか、どのくらい楽しんで生きてきたか、などというのが大事だったりします。だからいろんな経験をしながら、絵を描くことや学ぶことに向き合うのを楽しめる、前向きな人が来てくれると嬉しいですね」。

35名のアニメーターが活躍する仙台スタジオ作画ルーム。数年先に公開予定の人気作品も手掛けている。
仙台スタジオだけで作品をつくれるように
仙台スタジオの設置は、若者の可能性と夢を大きく広げた。MAPPAは現在、東北の各専門学校や大学などとの学事連携を行い、採用活動に積極的だ。仙台の専門学校や大学で企業説明会を行い、その際に特別授業なども開催している。
「学生さんが思っていることや質問したいことを、コミュニケーションを取りながら引き出していくスタイルで進めているんです。これまでは仙台を中心に行っていましたが、今後は東北全域に活動を広げていきたいと考えています。新卒はもちろん経験者も積極的に採用していて、仙台スタジオだけで一つの作品をつくれるようになることを目指しています。実際、アーティストのミュージックビデオの制作を昨年仙台スタジオメインで行ったんですよ」と芦野さん。
2025年4月、開設7年目となる仙台スタジオ。今後もシリーズものや良質な作品を絶えず送り出していくには、現場で絵を描くアニメーターの存在が必要不可欠だ。
「才能ある若い人材が集まり、ゆくゆくは2倍、3倍と増えて制作現場を盛り上げていってほしいですね」と芦野さん。将来的には仙台スタジオにも3DCG(3次元コンピュータグラフィックス)や撮影、背景といったCGI部門の新設を検討しているという。仙台スタジオのメンバーだけで制作した、MAPPAクオリティのアニメーション作品を見られる日はそう遠くないかもしれない。
株式会社MAPPA 仙台スタジオ
住所:宮城県仙台市