先進のIT技術で地域社会を守り、未来を支える。
Vol.03
アンデックス株式会社
アンデックス株式会社(以下「アンデックス」)は、仙台市に本社を置くITベンチャー企業だ。iPhone/Androidアプリの制作をはじめ、Webサイト制作、システム開発、各種自社サービスから派遣事業まで幅広く手がけている。OSのネイティブアプリだけでなく、クロスプラットフォームの開発にも定評がある。仙台市における子育て支援アプリ「まちのび」、水産業にITを採り入れることで水産業の活性化を促すアプリ「ウミミル」など、独創的なオリジナル商品を生み出し、国内外の評価も極めて高い。スペシャリスト集団アンデックスを牽引するのは創業者の三嶋順さん。自ら震災を体験した三嶋さんは、現在ITを活用した防災ソリューションに取り組んでいる。
地域BWAサービスを活かし、防災ソリューションを実現。
地域BWA(Broadband Wireless Access)という言葉をご存じだろうか。2.5GHz帯の周波数の電波を使い、地域の公共サービスの向上やデジタル・ディバイト(条件不利地域)の解消等、地域における公共福祉の増進に寄与することを目的とした、電気通信業務用無線システムだ。
地域BWAは1自治体1事業者と定められている。2022年4月現在、全国で100社以上認可され、仙台市の事業者はアンデックスとなる。アンデックスは、2019年の時点で20局あった基地局を、2022年度中に約500局まで開設していく予定だ。「仙台市から同意書をいただくまでは、しっかりコミュニケーションを交わしていく必要がありました」と三嶋さんは当時を振り返る。自社開発アプリ「まちのび」を中心に、アンデックスが地域の公共福祉に貢献できることを積極的にアピールしていく中で「仙台BOSAI-TECH」という枠組みに入らせてもらうことになったという。
「仙台BOSAI-TECH」は産学官金連携によるBOSAI-TECHでの新事業創出や共同研究、実証実験、企業・研究機関の新規立地等が仙台や東北から継続的に起こるとともに、その成果が社会実施される「BOSAI-TECHイノベーション・エコシステム」の形成を目指すもの。オープンイノベーションを通じた仙台防災枠組の理念に基づく製品・サービスの創出を支援する。大手企業・地域企業・外国企業・研究機関等、BOSAI-TECHイノベーション・エコシステムに関心のある全ての関係者の活動母体となるプラットフォームの形成・運営を一体的に実施する事業だ。
避難所運営の課題解決のために実証実験を。
2022年2月、アンデックスは新たな一歩を踏み出した。仙台市が実施した「仙台BOSAI-TECH Future Awards〜テクノロジーで明日を守るプランニングコンテスト」で採択された「地域BWAを活用したAIカメラ 効率的な避難所運営支援」について、ニューラルポケット株式会社(以下「ニューラルポケット」)をパートナー企業として実証実験を行ったのだ。
仙台市内の避難所で行われた実験内容は次の通り。
●AI画像解析技術による避難所運営の効率化
ニューラルポケットが提供するAIデジタルサイネージ「SIGN DIGI」により、個人情報を取得することなく、人数や年齢・性別などの属性を把握。災害発生時の避難所の状況を自動的に収集・共有することで、避難所のオペレーション上の負担を軽減するとともに、円滑な物資配分等に資するデータ提供を目指す。
●地域BWAを活用した通信手段の確保
アンデックスが提供する災害に強い地域BWAを活用した「避難所Wi-Fi」を設置。災害時に避難者向けにWi-Fiスポットを開放し、インターネットによる情報収集を支援するほか、避難所と災害対策本部等への連絡手段の支援としても活用する。
いかに早く、正確に、情報が避難者に伝えられるか。
災害時、避難者が必要とするのは情報だ。「震災時、当初は車のラジオからしか情報が得られず、津波の映像が見られたのは10時間後でしたでしょうか。避難所に関する情報も停滞気味で、困りましたね」。三嶋さんの実体験を元に、実験ではAIデジタルサイネージが必要な情報を発信。避難者の認識率の高さは予想以上で、AIデジタルサイネージの有効性を立証した。「将来的には避難所だけでなく、商店街などの街なか、地域避難所・広域避難所、駅や公園などに設置すると、情報の収集がより早く正確に行われるようになるでしょう」と三嶋さんは期待を寄せる。
実験の成果で得られたもう一つの収穫は、一般人でも、マニュアルに従い簡単に機器をセッティングできたこと。この結果に三嶋さんもホッと胸をなで下ろす。AIデジタルサイネージや避難所Wi-Fiは、非常時にどこでも誰でも使えなければ意味がないからだ。
防災ビジネスは、単なる投資の問題ではない。
アンデックスの企業理念は「技術で一番、地域で一番を目指します」。単にものづくりのための技術を磨くだけではなく、その技術で地域を良くして、地域から信頼される企業でありたい。三嶋さんの想いが込められている。「願えば叶うものがある」と三嶋さんは強く確信している。
自社単独では難しくても、仲間と一緒に取り組むことで可能性はより一層広がる。三嶋さんは「アライアンス・パートナーと手を組めば、掛け算の結果をもたらします」と持論を述べる。他社との協働は、自分たちが知らない技術やノウハウを学べるほか、刺激も受けられる。いいことづくめだ。「地域BWAでつながった仲間が札幌から福岡まで、また首都圏や大阪にもいます。皆が知恵を出し合って、仙台市から東北、日本全国、更に世界中で利用されていくことを願っています」。
災害は、いつ起こるか分からない。いつ起こるか分からないのに、どれくらい金をかけられるのか。防災ソリューションはビジネスになりにくいのが実情だ。だからこそ、三嶋さんはやり甲斐を感じている。被災した企業としての責任もある。「防災に関わるビジネスは、単に投資の問題ではありません。近年BCP(事業継続計画)を意識する企業が増え、危機的状況に対処することが、企業として当たり前になってきた世相も疎かにできません」。三嶋さんは現状に留まることなく、常に未来を見つめながらシステム開発に取り組んでいる。
コロナ禍によって気付かされた意外なこととは。
「地震大国」と呼ばれる日本では、近年50年に一度といわれる水害も度々発生している。三嶋さんは地域BWAの水害に対する有効性にも着目。「現在、河川の状況に関して、定期的に画像を送るのが一般的です。これだと画像データが重たくなるばかり。通信インフラを活用すれば、水位計を常時監視することも可能です」と考える三嶋さんは、このアイディアを今後自治体に提案していくつもりだ。
この2年半ほど、新型コロナウイルスの蔓延に伴い、世界中のライフスタイルが激変した。それまで対面で行われていたものが、ズームやチャットに切り替わり、IT業界にとってはビジネス・チャンスに。ワクチン接種の受付システムなど、コロナ禍がもたらした特需もあった。
しかし、この状況を三嶋さんは手放しで喜べない。「便利なようでいて、いざ使ってみると、チャットではなかなか伝わらないものがあることにも気づかされました。対面ならではの空気感というのも実際あります。人間が何千年も行ってきた対面によるコミュニケーションは基本中の基本。それが私たちのDNAにしっかり組み込まれている訳ですから、改めて認識し直す時期に来ているような気はします」。IT企業のトップでありながらIT礼賛とならないのは、いかにも三嶋さんらしい。
地域BWAという最先端技術を駆使して地域社会を災害から守る傍ら、アンデックスのエンジニア集団を統率する三嶋さんは人と人とのつながり、絆の大切さに人一倍強い想いを抱いている。
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