【シリーズ掲載Vol.1】シリコンロードのその先。新たな半導体拠点シリコンコリドーが日本を支え、東北を元気に
Vol.49
東北半導体・エレクトロニクスデザインコンソーシアム(T-Seeds)
1980年代、世界をリードする存在だった日本の半導体産業。しかし、米国の巻き返しや、台湾や韓国の台頭により、次第にその勢いは失われていった。そして今、国では半導体産業の復活を図るべく、次々と大規模な政策が打ち出されている。
一方で、大きな課題も浮き彫りに。国内で半導体の生産体制が急速に強化される反面、人材不足への懸念が高まっているのだ。
こうした背景を受け、2024年4月25日、東北エリア、国の半導体関連産業の人材の裾野拡大や基盤強化・発展を目指すべく、産学官の連携体『東北半導体・エレクトロニクスデザインコンソーシアム(T-Seeds。以下同)』が組成・発足。東北経済産業局が中心となり立ち上げた研究会が前身で、今後は民間主導で推進されることになる『T-Seeds』。
今回は東北経済産業局から亀田大貴係長、会員企業で会長職や事務局も務めるキオクシア岩手(株)総務部人材採用センターより高橋洋文センター長と宍戸みづきさんに、『T-Seeds』の理念やミッション、そしてますます拡充・強化されていく体制などをお話しいただいた。
かつて半導体産業は、東北の大きな強みだった
東北エリアは古くから半導体産業が集積した地域で、かつては「シリコンロード」と呼ばれていた。東北にとって半導体産業の位置付けは非常に重要であり、その役割の大きさから、「なくてはならない産業」として発展してきたのである。
「東北地域はさまざまな産業が集積している地域です。その中でも電子部品・デバイス・電子回路製造業や半導体製造装置業といった分野が、他の地域と比べても特に強い。この地域の強みである産業であることは間違いありません」と亀田さんは話す。
「私は半導体の製造業の会社に30年以上勤めていますが、その立場から見ても、東北には数多くの半導体関連産業があると感じますね」と、企業側の立場からコメントをつなぐ高橋さん。
そして時代はデジタルへ。AIや自動運転、5G、IoTなどデジタル技術の急速な発展からDXが加速的に進み、半導体の需要もさらに増していく。
「需要増加や世界情勢などにともない、半導体産業の重要性が増してくる中で、人材の確保や安定的な供給、そしてそれらの基盤づくりが必要不可欠になっていきました」と亀田さん。
そこでまず2022年6月に立ち上がったのが、『T-Seeds』の前身となる『東北半導体・エレクトロニクスデザイン研究会』である。
民間主導。「実行」を担う組織体として発足したT-Seeds
『東北半導体・エレクトロニクスデザイン研究会』は、亀田さんが係長を務める東北経済産業局を中心に、産学官の計104者で構成される組織体。
「研究会が発足したのは、東北地域全体における半導体人材の育成やサプライチェーン強靱化に取り組む必要がある中で、産学官の連携による取組の推進が必要と考えられたためです」。
「当時、東北地域にはそのような連携体が無く、人材育成やサプライチェーン強靱化のための方策も決まっていなかったため、その方策についてまず研究をしようということで、研究会が令和4年度に立ち上がりました」。
「全国各地で同様の取り組みが広がっていますが、地域ごとに産業構造や課題も異なるので、東北地域に根ざした連携体を整備する必要がありました」と亀田さんは言う。
その後、研究会は2カ年をかけて学生向けに実習プログラムを実施したり、東北各地にある半導体関連企業への視察ツアーを行ったりした。また、半導体産業に関するオンデマンド講座なども実施している。
これらの取り組みを通し、人材育成・確保や安定供給、サプライチェーンの強靭化それぞれの効果的な方策についてディスカッションと試行的なトライを重ねたのち、取りまとめの完成に至った。
「これからは取りまとめた方策を実行していくフェーズです。この実行フェーズに関しては、我々行政ではなく民間の企業様や教育機関の皆様が主体となる必要がありました。その方が、より地域の課題や特性に沿ったアクションが実現できると考えられるからです」と亀田さんは説明した。
このようにして、2024年4月25日、半導体関連産業の人材の裾野拡大や基盤強化・発展の実行を担う『T-Seeds』が、民間主導という形で発足したのだった。
研究会は、共創型のコンソーシアムに生まれ変わった
『T-Seeds』の運営を民間へ移管するにあたり、組織体としても研究会からコンソーシアムに移行することとなった。
発起会社となったのは、キオクシア岩手(株)のほか、東京エレクトロン宮城(株)、(株)ジャパンセミコンダクター、 (株)デンソー岩手、ソニーセミコンダクタマニファクチャリング(株)、アルス(株)の6社で、役員企業として『T-Seeds』を牽引する立場だ。高橋さんと宍戸さんが在籍するキオクシア岩手(株)は会長職に就き、事務局も担っている。
また『T-Seeds』の会員制度は正会員とサポーター会員の2つの種別を設けている。正会員については、まさしく半導体業界を引っ張っている企業が名を連ねる。
一方で、サポーター会員は半導体業界の企業をサポートするような、例えば金融機関や人材派遣会社、物流企業などが主な構成会員だ。さらに人材派遣会社や行政機関、大学、高専といった学術機関、 経済団体まで参加しており、8月末時点ですでに129社・機関が参加している。
「金融機関や人材派遣といった異業種の参加もコンソーシアムならではの発想ですよね。異業種の方からのサポートや知見の活用も、推進の上では欠かせません。例えば人材派遣会社は多種多様な業界に人材を派遣しますが、その1つの派遣先として半導体業界もある」。
「兼ねてからのお付き合いや取引がある中で、引き続きこの東北地域の半導体業界を盛り上げたいという想いは、参加している人材派遣会社も同じということですね」と亀田さん。
これまでも、これからも。引き続き東北地域の半導体業界を盛り上げようという志が、参加者の中で共通していた。
さて、その中で会長職を務めるキオクシア岩手(株)。高橋さんと宍戸さんに、その使命と役割について聞いた。
「会長の柴山は(柴山耕一郎代表取締役社長)、半導体産業全体を盛り上げる必要があると言っています。自分たちの事業も大事ですが、日本の半導体産業を盛り上げるその一端を担おう、という想いは持っているはずです。そういった意味でも、特に人材育成の部分で、いい学生に来てもらうために東北全体となって、半導体の産業界に目を向けてもらえるような取り組みをキオクシア岩手としても率先してどんどんやっていきたい」と宍戸さんは言う。
高橋さんはサプライチェーンの強靱化について言及しつつ、
「サプライチェーンもそう。より安く早く材料を調達するにしても、それを1人勝ちするよりは東北全体でやった方がいいと思うのです。東北全体を見て対応していく必要がある、そのあたりをリードしていきたいと思っています」と、やはり東北全体の半導体産業の発展を願いつつ、それを先導する存在でありたいと意欲を見せた。
学術教育機関、行政が後押しし、企業と学生がWin-Winになることを目指して
『T-Seeds』の大きなミッションの1つといえば、やはり半導体人材の育成だ。
取り組みの大きなポイントは、この分野の半導体に携わる人材を確保するためにはどのように関心を持ってもらうか、といった方策を産学官で共有しながら実行するという点にある。
よって産業界としてはどういう人材が欲しいのかといったニーズを抽出することから始まり、それに対する供給策を産学官連携により実行するというもの。
「学生の皆さんの半導体に対する関心度や習熟度に応じたプログラムが重要だと思っています。例えば、まずは関心を持っていただけるようなセミナーを開催したり、詳しく知りたいという方に向けてオンデマンドの講座の配信をしたり。また、東北大学の施設を借りて半導体の製造を実際に自分の手を動かしながら学べるカリキュラムも展開しています」と亀田さん。
次に『T-Seeds』が民間主導となったことで変わった部分、プラスになった部分があるかについて聞いてみると、会員企業の立場から高橋さんが答えてくれた。
「やはり半導体の産業には色々な仕事があります。その意味では、半導体関連企業にとっては業界PRができて産業が盛り上がるきっかけになるわけですから、大きなプラスになります。また、学術機関にとっては、学生さんが仕事の内容を知る機会になります。そして自分が勉強してきたことがどんな風に半導体関連の分野で活かせるのだろう?という興味関心に応えることもできる。つまり、民間主導によって企業が学生さんや地域にアプローチする機会が増えたのではないかと思っています」。
続けて宍戸さんがコメントをつなぐ。
「学生さんにとって半導体関連企業に入社してみないとわからないことがたくさんあります。よって若年層の方々にアピールするためには、実際に学生と関わることが大切だと思います。そしてその主体となる企業の担当者が、学生さんにより近い立場で、色々な意見や見方、新しい視点を提供しやすくなったことが、民間主導のメリットだと思っています」。
産学官連携をベースにした民間主導だからこそ、未来の半導体人材に、より近い立場で、深く交流し、関わることができる。
学生にとっても、企業にとっても有益。人材育成におけるWin-Winの仕組みを前提としている点が、『T-Seeds』の人材育成戦略の大きな特徴といえそうだ。
ロードから、コリドーへ。一つひとつのニーズに目を向けながら
最後に、事務局として今後どのような形で『T-Seeds』を推進していこうと考えているか、お一人ずつ話を聞いた。
はじめに宍戸さんが、
「コンソーシアム化によってスピード感が生まれました。来年度、再来年度、もっとスピード感を上げて活動を運営していきたいというのがまず1つ。また、現在、会長の柴山と各地域の会員企業を訪問させていただいている最中です」。
「その中で企業が抱えている課題が何なのか、ニーズが何なのか、しっかり話を聞きながらT-Seedsのあるべき姿を模索していきたいと考えています。現状は東北全体とはいかず、まだまだ県単体で活動している部分も大きいので、まとまりづくりにも積極的に取り組んでいきたいですね」と抱負を語ってくれた。
亀田さんは、
「かつて東北地域は半導体産業のシリコンロードと呼ばれていましたが、それは東北自動車道沿いに半導体産業が集積したことが由来なのです」。
「しかし現時点においてみると、必ずしも東北自動車道沿いだけではなく、東北各地にさまざまな半導体関連企業が集積してきている。また、教育機関も各地域にあります。このように、産業界、教育、行政という産学官の間において、人や情報が活発に行き交うような状態を目指したいと思っています」。
「一直線ではなく、回廊のようなイメージですね。そこでT-Seedsが目指すべき理想の状態をシリコンコリドー(コリドーは回廊の意味)としました。半導体産業の成長が東北地域の成長にも繋がっていくと思っていますので、T-Seedsの取り組みを通じて半導体産業、東北地域をますます元気にしていきたい」と高い視座でビジョンを描く。
最後に高橋さんから、『T-Seeds』の使命の本質に迫るコメントをいただく。
「たくさんの会員企業が集まる中で、やはり東北は広いなと感じています。ですので、これを集積するというのは大変なことだと思っています。だからこそ、県としてのまとまりや、地域によって異なる課題の洗い出しなど、小さな積み重ねを重視していきたい」。
「また、一口に半導体産業と言ってもその幅は広く、多種多様な職種があります。一つひとつのニーズを整理する必要もあると考えています。東北エリアや産業全体といった大きな目標を持つと同時に、地域レベル、業態レベル、細分化した職種や業務レベルでの目指すべき方向性も示していくことが、事務局としての使命と捉えています」。
『T-Seeds』が目指すのは、日本の半導体産業が再び強さを取り戻す上での一翼を担うこと。
しかしその本質は、あくまで東北全体の活性化であり、地域や職種、業務レベルに至るまでの一つひとつのニーズに目を向け、それらに寄り添うことで実現されるべきものなのだ。
◎本記事はシリーズにて掲載します。次回Vol.2をご期待ください。
T-Seeds事務局(キオクシア岩手(株)総務部人採用センター)
住所:岩手県北上市北工業団地6番6号
TEL:0197-68-8202