物流の枠を超え、コワーキングスペースが未来のためにできること。

Vol.07
STUDIO080(株式会社丸山運送)

宮城県を本社におく、創業60年、社員数約300名の総合物流企業「丸山運送」は、北は岩手から南は福岡の国内9拠点からなり、手続き、保管・管理、配送などワンストップ物流サービスを提供している。さらに上海オフィスを構え、クライアントの中国進出や販路開拓のサポートまで事業領域を広げ、新たな分野での挑戦と位置付けた危険物倉庫は、海上・トラック・鉄道とシームレスに輸送できる液体輸送用のISOタンクコンテナの保管も行う。そして、2019年には異業種である「コワーキングスペース」の運営にも参入。運送業の枠に捕らわれないイノベーティブな運送会社だ

コワーキングスペース業界に異業種から参入

2019年、仙台市苦竹の広大な読売新聞社の印刷工場跡地に誕生した「STUDIO080」。当初は震災の反省から本社機能のバックアップ施設として購入したが、さらに検討を重ね、幅広く企業や働く人をサポートするコワーキングスペースとして運営することを決定。異業種参入というチャレンジングな取り組みを始めた。
広大な印刷工場跡地を活用した東北最大級と謳われているだけに、その伸びやかな空間には目をひかれる。広大なSEMINARIUMはカンファレンスやプレゼンテーションの会場としてだけでなく、音楽イベントや物販イベント、ワークショップなどでも活用できる。天井高12mの解放感溢れる大空間ラウンジが魅力のシェアオフィスエリアには、フリーデスク、個室オフィス、会議室、共有キッチンなどが設けられ、会議室には自由に使えるモニターやプロジェクターといった備品もある。

印刷工場跡地をリノベーションしたSEMINARIUMは多彩に活用できるスタイリッシュで伸びやかな空間。

さらに1階には倉庫と荷捌きスペース、トラック用ヤードが残されていて、入居者が利用できる。運送会社が運営する施設ならではの強みと言えるもので、他にはない倉庫空間や物流拠点を活かしたロジスティクス・サービスも提供できる。

STUDIO080代表の栃山 剛さんは話す。「事務所、サテライトオフィスとして利用できる個室オフィスから、小規模ビジネスのスタートアップやフリーランスでの利用、多目的ホールでのイベント開催など、活用シーンは多彩です。さらに、物流が必要なお客様には倉庫の利用も可能で、様々なビジネスシーンに活用できると自負しています。このSTUDIO080から新たなビジネスの可能性を広げていただけると考えています」。

自身のアイデアが受け容れられてSTUDIO080の管理者へ

前職はアパレルのバイヤーとして働いていたという栃山さん。異業種である丸山運送へ入社したのは物流に興味があったからだというが、STUDIO080の事業に参加した理由はどこにあるのだろうか。
「丸山運送に入社以来、もっと若い人に会社の魅力や可能性を感じてもらいたいと思っていました。物流会社という名前が邪魔していると感じていたのですが、その時、たまたま印刷工場跡地の購入の話を知り、ぜひ業種にこだわらない新規事業に関わりたいと思いました」と話す栃山さん。
現在、丸山運送では、80の事業、80人の経営者を社内から創出し、未来に向かって変革していこうという「the080ビジョン」という旗印を掲げている。将来を見据えて経営の多角化を目指し、積極的に取り組んでいるが、この土壌の中で、新しく加わった若い栃山さんのSTUDIO080に関するビジョンを会社が受け止めてくれた。
「自身のアイデアが受け容れられたのはうれしかったですし、やりがいも感じています。STUDIO080の運営は、会社にとっても多角化ビジネスへ向けた大事な最初の一歩。ぜひ成功させて、将来の多様な事業につなげていきたいですね」と話す。

コワーキングスペースだからできる新しいビジネスマッチング

栃山さんが考えるコワーキングスペースとは何か?
それは、ひとつの場に、様々な企業・人が集まり、働く場をシェアすることでイノベーションをしていく場だという。 
「現在、会員数340名、企業数が33社。保険会社、製造会社、建設会社、自動車販売会社、弁護士、WEBコンサルタントなど、いろいろな業種が入居・協賛をしてくれています。この数のネットワークを活かせないか。そう考えた時、このコワーキングスペースから、新しい化学反応を生むようなビジネスコラボレーションも生み出せたらと考えたのです」。

会員の中には様々な業種業態の企業の決済権のあるトップがいる。スピーディにそれぞれの事業ニーズをつないでいくことが可能となる。「その際大切になるのが、質のいいコミュニケーション。会話からお客様のビジネスに対する思いや課題・可能性をつないでいくことで、宮城の中で仕事を回せる世界をつくっていくことができると考えます」とコワーキングスペースだからこそ広がるビジネスマッチングの可能性を語る。

さらに、いろんな業種のコンサルタント的な動きもしている。
「本体の丸山運送では、ワールドワイドに国際物流をサポートしていて、最先端の技術を駆使した製品も多く運んでいます。その製品を海外まで運ぶ技術・インフラ・ノウハウをトータルにサポートしています」と語るように、母体である丸山運送の輸出入通関のノウハウをベースに企業の海外戦略のサポートを行う。「例えば、もったいないのが値段の付け方。貿易に関する知識やノウハウがないと価格設定も相手任せになり、売れ残ってしまうということもあります。そのあたりの値段設定の仕方もアドバイスさせていただいています」。
「これから生き延びていくには、お客様が欲しいと思っている価値の創造をしていくしかない」と考える栃山さん。トータルな輸送業を母体とするコワーキングスペースならではノウハウの提供をしていきたいと考えている。

場づくりの枠を超え、次世代の担う「人」づくりへ

宮城県でも急増しているというコワーキングスペース。時流ということだが、実際にはオープンしても人が来ないところがたくさんあるという。その中で栃山さんのノウハウを期待して、宮城県からコワーキングスペースのアドバイザーを依頼されている。「他県から企業を呼びたい」という宮城県にとっても、企業進出の基点となるコワーキングスペースの充実を図っていくことは大切なポイントとなっているようだ。
「従来のコワーキングスペースはベンチャー企業か大手企業をターゲットにしていました。でもそれだと数は増えないですよね。私は当初から利用者を増やすためにもボリュームゾーンの中小企業の方々に使ってもらおうと考えていました」と、これからのあるべきコワーキングスペースの戦略を語る。
地域の中小企業の「働く人」が使う人がターゲットになれば、すごいマーケットになる。働く人に自分のオフィス以上にパフォーマンスを得られる「働きやすい環境」を提供をすれば、使いたいという会社も増えていくはずだ。これが栃山さんが考えるコワーキングスペースに対する戦略だ。

宮城県でも急増しているコワーキングスペースだが、実際には経営が難しいところがたくさんある。

「現在、ビジネスシーンにおいても、ストレス・精神的苦痛が問題になっています。コロナ禍もあってコミュニケーションが取りづらい・対面で話ができないという人が75%いると言われています。働く人のために、この状況を改善できる場を提供したいと考えています」。
よくビジネスにおいて「ヒト・モノ・カネ」と言われるが、丸山運送の哲学の原点は「ヒト・ヒト・ヒト」。このコワーキングスペース事業においても「人」がキーとなるというわけだ。単なる場づくりから、人づくりへ、着実に階段を登っている。

「働く人を大切にする。これは、未来の働く人の育成にもつながります。現在、13名のインターンの学生に来てもらっていますが、企業への訪問・インタビューなどを通して、事業マッチングの仕事を担ってもらっています。まさに、実践の場で即戦力となるスキルをつけてもらっているわけです。人材育成にもつながっていると自負しています」。

学生のインターンを年間を通して多く受け入れている。実践の中で地域のビジネスを動かすノウハウを学んでいる。

大規模なカンファレンスもできるこのコワーキングスペースは就活セミナーの場にもなる。現在、学生を集めて、30社以上の会員企業にプレゼンをしてもらっている。コワーキングスペースが地域の企業にとってリクルート事業の拠点となるという展開が生まれている。
「この取り組みが話題となり、採用担当を担って欲しいという話も出てきました。コワーキングスペースで人材づくりということが、いい意味でブランド化になっているのでしょうか」。
インターンで訪れる年間500人という学生のデータが、企業の採用活動に活かせるという。例えば企業紹介のスライドづくりにおいても「スライドの中にこれとこれを入れると魅力的になる」というような有効で具体的なサポートができているという。さらにこの展開は広がり、大学の就活支援も行うようになっている。「大学の就活サポートは型にはまっていて、学生が求める差別化サービスができない」と考える。「個人個人で差別化するにはどうしたらいいか」をサポートしているという。
「宮城に就職したいと思っていても、企業の存在を知らなかったり、出会うきっかけがないという学生が多いです。そんな若い人と企業をつないで地元で働いてもらう。そんな総合的に宮城のためになる場にしていきたいと思っています」。

可能性はまちづくり支援まで。ベンチャー魂が生きる

可能性に満ちたSTUDIO080。さらにどんな未来を描いているのだろうか。
「コロナで社会情勢も変わり、ビジネスシーンにおいても求められるものが変化しています。最近よく大手の企業からは、何らかのまちづくりしたいという要望を受けます。この企業のソーシャル戦略でも、STUDIO080が手伝えることはあると考えます」。
STUDIO080が地域に提供できるサービスは大きく2つと考えている。一つ目が施設内で付加価値を与えつづけていること。そして二つ目が、そのネットワーク・コミュニティづくりのチカラを使って新しい価値を提供すること。このネットワーク・コミュニティづくりが、地域の活性化を生み出す「まちづくりサポート」にもつながる。
時代を動かすロジックを持っていると自負しているという栃山さん。ネットワーク・コミュニティづくりを行うSTUDIO080だからこそ、新しい可能性やシナジー効果が生まれるのかも知れない。
「80年、100年続くいい意味で『ベンチャー企業』といえる存在になりたいですね。これらの取り組みを続けることでお客様の可能性が広がり、いつか世界を驚かせるビジネスが生まれることを夢見ています」。

STUDIO080(株式会社丸山運送)
住所:宮城県仙台市宮城野区港4丁目1番地2
TEL:022-355-8108

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