食品リサイクルから電気づくり! 残りなく使ってムダのない地域循環型の社会へ

vol.51
株式会社 東北バイオフードリサイクル

食品廃棄物を焼却せずに発酵させて発生したバイオガスで発電し、焼却していたときに出していたCO2を大幅に削減する、という世界的に注目される技術で社会課題に挑む「東北バイオフードリサイクル」。食品廃棄物のリサイクル事業を基盤にムダのない社会づくりに取り組む同社のさまざまな試みについて紹介していく。

 

食品廃棄物を焼却せず
リサイクル資源として活用する取り組み

2024年6月、仙台市の食品廃棄物についての取り組みに、新しい試みが加わった。仙台市は2023年11月、国の脱炭素先行地域に採択され、市内3つのエリアでさまざまな脱炭素化の取り組みを複層的に進めてきた。そのエリアの1つ「定禅寺通エリア」における取り組みの第一弾として「定禅寺通等食品リサイクル推進モデル事業」を開始した。
どういうことかというと食品廃棄物を焼却しない取り組みである。従来、仙台市の清掃工場だけでも1年間で約1.3万トン(令和元年度)焼却していた。これを、定禅寺通エリア周辺の飲食店などに協力してもらい、排出される食品廃棄物(事業系生ごみ)をまとめて収集運搬し、焼却せずにバイオマス資源として活用するというものだ。
仙台清掃公社が食品リサイクル専用車両で収集して運ぶ搬入先は、東北バイオフードリサイクルだ。

東北バイオフードリサイクルの活動にふれる前に、あらためて食品廃棄物について確認しておきたい。食品廃棄物は、2001年(平成13年)に施行された食品リサイクル法で定義が定められた。1つは、食品の流通過程や消費段階で生じる売れ残りや食べ残し。2つめは、食品の製造や調理過程で生じる加工残さ、調理くず、である。まずこれらの食品廃棄物の発生を減らすこと。発生してしまったものについては食品廃棄物の再生利用を進める、というのが食品リサイクル法の趣旨であり、これらのことを事業者に対して求めるものとなっている。
2019年に国は2024年度までに達成すべきリサイクル率を示したが、残念ながらあまり進んでいないとの指摘がある。⾷品廃棄物は、⾷品流通の川下に⾄るほど異物混入率が高く分別が難しくなることから、川上となる⾷品製造業における再⽣利⽤の実施率は⾼いものの、⾷品卸売業、⾷品⼩売業、外⾷産業の順に実施率は低下している。⾷品製造業では目標値95%に対して96%と達成しているが、外食産業は目標値50%に対して31%と未達成となっている(農水省「食品リサイクルの現状」)。
外食産業における⾷品廃棄物とは、一般にいろいろな異物、つまようじ、割り箸、パッケージ、ビニール袋などが混入されていて、これらを分別するなら手作業で仕分けするしかない。県内全域から大量に出てくるので、これらの廃棄物は焼却されていた。

東北バイオフードリサイクルは、食品リサイクルを目的として2019年に立ち上げられた会社だ。食品廃棄物を焼却せず、リサイクル資源として活用したい、少しでももったいないことを減らしたいという強い思いを事業展開のベースとしている。JFEグループ、JR東日本グループ、東京ガス、さらに仙台清掃公社の出資を受けて運営されていることを知れば、この会社の成り立ちがわかってくる。
処理拠点の仙台工場は仙台市宮城野区蒲生に位置し、2022年から食品廃棄物の受入と処理を行っている。

東北バイオフードリサイクル本社工場

 

では東北バイオフードリサイクルでは、どのように食品廃棄物をリサイクルしているのか。「当社では1日最大40トンの食品廃棄物を受け入れることが可能で、その廃棄物を微生物により発酵させ、そこで発生するメタンガスを燃料にして発電を行うという、世界的に注目されている技術を使ってリサイクルを実行しています」と、宇田川悟代表取締役社長は答える。
「従来、食品廃棄物がリサイクル処理できず焼却されていたときには、当然相当程度のCO2を排出していたわけですが、当社における処理では一般家庭の約1500世帯分の発電を行うことができ、そのCO2を年間約3000トン削減し、地球温暖化防止にもつなげています」。つまり、食品廃棄物をただ処理するのではない、「もったいない」を大切にした事業スピリットで食品廃棄物の潜在エネルギーを引き出すことによって、カーボンニュートラルに貢献する新たな価値を生み出している。

登録業者の登録車両は搬入口の計測プレートで自動的に廃棄物の重量が測定される

工場内設備コントロールセンター

 

バイオガス発電からさらに
電力リサイクルループづくりへ

「ここではバイオガス発電によって電気をつくり出していますが、つくり出して終わりではありません。この電気は、JFEグループの新電力 アーバンエナジー株式会社(本社:横浜市)に売電されます。アーバンエナジーは、実質再エネ100%の電力をお客さまに供給いたします。仮にお客さまが食品製造事業者で、当社に廃棄物処理を搬入いただくというケースの場合には、搬入〜バイオガス発電〜再エネ電力の使用による食品製造〜リサイクルを目的とした廃棄物処理〜というひとつのリサイクルループが完成します。当社が目指しているのは、こうしたサステナブルな未来につながる食品リサイクルを基盤とした循環型エコシステムのあり方なんです」と、宇田川社長は話す。

実際に、このようなケースに該当する事例が出てきている。岩手県北上市にある業務用調味料専門メーカー 株式会社アジテックは、アーバンエナジーの電力プランを活用した食品リサイクルへの取り組みの第一号として、2024年4月から開始した。アジテックの生産・製造過程で排出された食品廃棄物を東北バイオフードリサイクルに搬入し、同工場でメタン発酵〜リサイクル発電を行い、発電した電力はアーバンエナジーが買い取り、アジテックに供給する。こうした事例の拡大により、それぞれに効率的でまたリーズナブルな費用で大きな成果を得ることができ、よりサステナブルな運用に近づいていく。

東北バイオフードリサイクル食品廃棄物処理フロー

食品廃棄物の有効利用を追求して
ムダのないシステムづくり

「当工場の食品廃棄物処理の特徴の1つは、食品廃棄物の受け入れにあたって混入物の分別を要しない、ということです」と、石井有光取締役工場長は話す。「受け入れ後に、食品廃棄物は破砕装置で破砕し、不適物除去装置でプラスチック類などの発酵不適物を取り除いた後、加水して調整槽へ移送され、調整槽から連続的に発酵槽へ送られて約20日間かけ、約37℃でメタン発酵されます。発生したバイオガスに含まれる硫化水素を除去し、出力780kWのガスエンジン発電機1基により電力に変換されます」。
さらに、発電機から生じた排熱の一部は発酵槽の加温に使われ、処理の過程で出る排水は徹底的に生物処理を行い、施設内で再利用される。余剰分のみ下水道放流される。このように食品廃棄物処理の適正なフローが確立されていると見受けたが、宇田川社長によれば、これらは工場稼働前、会社設立前からJFEエンジニアリングを中心としたプロジェクトグループで多くの技術者・研究者が開発と実証を繰り返し、準備を進めてきたことなのだという。

東北バイオフードリサイクルの「もったいない」スピリットは、これだけにとどまらない。「発酵槽でバイオガスをつくるときに発酵残さというものが残りますが、この残さから農業用肥料をつくり出しています」と石井工場長。バイオガスによる再生可能エネルギーをつくる一方で、バイオガスをつくるときに出てくる発酵残渣も使い切って、農業用肥料として生かすムダのないシステムをつくっているのだ。

肥料は液肥と固形肥料の2種類。液肥は「伊達のしずく」、固形肥料は「伊達のみのり」として商品化されている。当サイトの以前の特集で東松島市にある農業法人「アグリードなるせ」の取り組みを紹介した。その中で肥料の仕入れ先が東北バイオフードリサイクルだということを書いた。アグリードなるせで使っていたのは、固形肥料の方だ。アグリードなるせでは、合成肥料や輸入肥料が高騰している現状の打開策のひとつとして、国内肥料の導入を計画し、子実用トウモロコシの畑で実証試験を試みていた。地域内のサプライであれば、輸送代もかからない。化学肥料に代わり「伊達のしずく」、「伊達のみのり」を使うことで、ほ場の土も改善される。固形肥料は、アグリードなるせのような大規模農業法人で、マニュアスプレッダー(肥料を大型ほ場に全面散布する農業機械)で施肥するようなスタイルに適しているという。

この場面においても、たとえばこの肥料を使って生産された農産物が、飲食店・外食産業などに納められ、そこで出た食品廃棄物が再び東北バイオに搬入されれば、大きな農業リサイクルループが実現する。焼却される食品廃棄物が減り、新しい再エネが生まれ、生じた残渣を肥料利用することでムダのない社会が少しずつ整っていくことが期待される。

食品廃棄物の適正な処理と併せて、東北地方における電力と農業の地産地消型循環利用推進とサーキュラーエコノミーの達成を目指す。それが宇田川社長、石井工場長たちが描いている明日のビジョン。ぜひ、もっともっと、みんなに関心を持ってもらい注目してほしい社会プロジェクトのひとつだ。

巨大な発酵タンクと発酵槽をバックに

株式会社 東北バイオフードリサイクル
https://www.tohoku-bio.co.jp

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