個人事業主から大手企業まで、広く愛される堅実な手仕事。

Vol.06
株式会社ウィット・アソシエイツ

普段、何気なく生活しているまちのいたるところに「デザイン」がある。
駅、商業施設、飲食店、病院、エンターテイメント施設。意識して見てみると、誰かがデザインしたそれらの建物や空間景観がまちに彩りを添え、地域の活気づくりに一役買っていることに気付く。しかし誰が、どんな会社が、その裏側を支えているのかまでは、分からないことが多い。建築士、設計士、デザイナー――まちの景観・にぎわいづくりの立役者とも言える彼らは普段、どんな仕事をしているのか。

少数精鋭だからこそ、真摯に向き合う

宮城県には大小さまざまな建築設計事務所がある。大手企業ともなると公共施設から総合病院、学校などスケールの大きい仕事ができるとあって、就職活動では特に建築・設計を学ぶ学生からの人気も高い傾向にあるが、商業施設や個人宅など生活に密着した建築物は個人事務所が担っているケースが多い。
仙台市街地の中心部に事務所を構える株式会社ウィット・アソシエイツも、全スタッフ18名という少数精鋭で飲食店や小売店などの建築デザイン・空間設計から施工ディレクションまで行っている。代表取締役の石井靖儀社長が2000年に設立し、仙台を中心に東京などでも確かなデザイン力を発揮してきた。「大手の設計事務所に対して個人飲食店などは依頼しにくいという現実があります。そうした方々からの需要は特に大きいですね」と話すのは、クリエイティブ・プロデューサーの白石琢磨さん。実際にクライアントと折衝することも多い、業界30年以上のベテランだ。「たとえ予算が少なくても、その中でできる限りのことをする。そうやって真摯に向き合い続けた結果、長くご愛顧いただいているのかもしれません」と、競争の激しい業界で20年以上にわたり事業を続けられた理由について語る姿勢からは、堅実な社風を垣間見ることができる。

デザイン・設計を若い人たちに任せる代わりに社員の働く環境を整えるのが私の仕事、と話す石井社長。

設計から施工まで、一貫体制で挑む

石井社長によれば、仙台にある建築設計事務所の中でも設計から施工まで一貫して行う事務所は珍しいのだという。それでも設計だけで終わらせない理由は、変更が生じた場合に臨機応変に対応することができるからだ。「現場では図面をもとに工事が行われますが、進めていくと”もっとこうした方がいいのでは?”と思うことがあります。細かいところだと、動線を考えたときの照明ライティングなどですね。施工業者との協働では変更の度に打合せをして内容をすり合わせる必要がありますが、自社で完結すればそうした煩雑さがなく、お客様によりよいものを迅速に提供することができます」と、白石さんも一貫体制のメリットについて語ってくれた。「お客様の中には内装に強いこだわりを持つ方もいますが、要望通りに設計すると動線がうまく機能しなくなってしまうこともあります。そのときはデザインラフの段階から説明し、検討し合います。双方が納得できるかどうかが重要だと考えています」。

断ることを知らない、と話す白石さん。違う畑の仕事だったり、条件が限られたりする場合でも断らず、「どうしたら実現できるか」を一番に考えて取り組むという。
白石さんのこだわりは手書きの図面。鉛筆の線が持つ力強さが説得力を生む。

こうした堅実な仕事ぶりが評価され、取引のある大手企業からの信頼も篤い。地元野球チームのホームスタジアムでは毎年ソフト面・ハード面のデザイン監修を担当しているというから、知らない内にお世話になっていたという方も多いかもしれない。「球団社長の別荘のデザイン・設計を直接依頼していただいたこともあります。直近では、南三陸さんさん商店街に球団が寄贈した、”ファンの背番号”として永久欠番にしている”10”をかたどったベンチのデザインにも携わらせていただきました」。

球場の改修について、最近では0から一任されるようになったという。
元プロ野球選手・枡田慎太郎さんが経営するおでん専門店。枡田の「枡」のテクスチャーをあちこちに点在させた。

東京オフィスで受けた刺激を糧に

ウィット・アソシエイツは、東京に事務所を構えているという点でも市内のほかの事務所とは一線を画している。「会社設立当初は東京で仕事がしたかったんです。見栄もあったかな」と当時を振り返る石井社長。仙台で会社を設立してから2、3年が経過した頃、白石さんを含む5人のメンバーで東京オフィスをスタートさせた。「仙台で研修したスタッフを東京に出向させるということもしていました。東京はクライアントが多く、広告代理店と組む機会もあり、その点で仙台との違いを感じましたね」。しかし白石さん曰く、デザインや技術面では仙台も決して引けを取らないという。「業界でも有名なデザイナーと仕事をご一緒したことがあったのですが、設計という観点では変わらないのかもしれないと思いました。むしろ設計したものを”カタチ”にする腕のいい職人の多さに驚きましたね。参考になりましたし、刺激にもなりました」。

東京は日本の最先端をいく大都市だ。仙台・宮城で生活している人の中には、東京で流行したものが時間差で地方に伝播していることを実感したことがあるという人もいるのではないだろうか。東京とつながりがあるということはいち早くその流行をキャッチできる立ち位置にある、と言えるようにも思えるが、そんな筆者の浅慮を石井社長は力強く一蹴した。「たしかに建築・設計の分野にも流行はあります。マンションの内装とか。しかし流行っているからと言ってその流行りを環境や文化が異なる仙台の建築物に安易に取り入れるつもりは、今のところありません」。

「クリエイティブは余白から生まれる」新しい発想と内部の意識改革のためにABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)を基本にレイヤーしたデザイン。
東京新橋にある”モダン メキシカーノ”のお店。色温度を高めに設定し、本場の空気感を演出した。
イメージを具現化するため、業者さんとの打合せではお互いが納得するまで細部にわたってすり合わせを行う。

飲食店業界への「恩返し」も

昨今の世界情勢と新型コロナウイルス感染症の流行により木材価格が高騰し、建築業界は現在、「ウッドショック」と呼ばれる厳しい状況に置かれている。石井社長たちも例に漏れず、材料が入荷できないなどの影響が出始めているという。「建材の価格も従来より15〜40%上昇し、店舗併用住宅の建築にあたって資材が足りなくなるという問題も出てきました。この危機をどのように乗り越えるかは模索中です」と、厳しい胸の内を明かした。一方、同じようにコロナ禍で打撃を受けた飲食業界に対してはこれまでの「恩返し」の意味も込め、何らかの形で貢献していきたいとも語る。
「新型コロナウイルスの流行で消費者の行動や価値観が変わり、求められるものも変化しました。特に現在は、二次的なものや情緒的価値といったものが求められるようになったと感じています。クライアントにとって何が必要かを見極め、最善の道を切り拓いていくことによって、これまで私たちを育ててくれた飲食店や小売店に対し奉仕していければと考えています」。

株式会社ウィット・アソシエイツ
住所:仙台市青葉区堤通雨宮町4-11 伊藤ビル2F
TEL:022-727-5611

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