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「子どもたちの笑顔のために」。 “ゲームのおじさん”は、今日もeスポーツ事業で奮闘する。

Vol.54
株式会社システムズ

年々拡大しているeスポーツ市場に、2021年、仙台のとある企業が参入した。
株式会社システムズ——映像・音響システムの設計・施工・保守を事業とする会社だ。急拡大を続けるマーケットに、半世紀の歴史と実績を持つシステムズが乗り込む。eBoxと名付けられた新事業を運営する人々は、さぞ手練れの野心家に違いない——そう考えた先で待っていたのは、目をキラキラに輝かせた“ゲームのおじさんたち”だった。
学校の先生でも、保護者でもない、ゲームのことを教えてくれる不思議な大人。そんな彼らだからこそ、子どもたちに語れる言葉がある。“ゲームのおじさん”である専務取締役の中村倫明さんとeBoxのマネージャーである名取大志さんに、eスポーツ事業と子どもたちに伝えたいメッセージを伺った。

スタート地点から“子ども”。eBox事業立ち上げの経緯。

システムズは1974年の会社設立以降、一貫して音と映像にこだわって事業を行ってきた。映像・音響システムの設計・施工・保守のプロであるシステムズが取り扱う設備品目の中には、高性能パソコンもラインナップされている。しかし、これまで行ってきたのはあくまでパソコン設備の販売・設計のみだった。

そんなシステムズに、とある連絡が入る。
「お取引先様の学校から、“子どもたちがeスポーツを部活にしたいと言っている”という相談があったんです。しかも、可能ならば販売やシステム設計だけで終わりではなく、子どもたちと一緒に活動をしてほしいと」
そう話すのは、専務取締役の中村さんだ。
「“eスポーツを部活にしたいと思ってはいるけれど、どうすれば…”と悩んでいる学校は多い。ならば、東北の中でそういう学校を応援する会社があってもいいのかなと、事業化を検討し始めたんです」
子どもたちの後押しをしたいと事業化を決意した中村さんに、思わぬ壁が立ちはだかった。
「ゲームといっても、僕らの世代はファミコンでもギリギリ。ゲームのことがよくわからなかった。だから、会社の中で公募したんです。“ゲームに詳しい人いませんか?”って。そしたら、名取が元気よく立候補して」
名取さんは、小学校五年生からオンラインゲームをやってきた筋金入りのゲーマーだ。そんな名取さんをマネージャーとして、eBoxと名付けられたeスポーツ事業は動き出した。

中村倫明専務取締役

eBoxマネージャーの名取大志さん

 

 

 

 

 

 

たちまち話題になったeBox。大活躍する“ゲームのおじさん”!?

2023年末、eBoxに一つの企画が舞い込んだ。市民センターで子ども向けのeスポーツの講座をしてほしいというものである。市民センターでは毎年親子イベントが実施されているが、そのバリエーションの拡充が長年の課題だった。真新しい内容を取り入れたいが、はてさてどうすれば…。そんな時にeBoxの存在を知り、オファーをしてきたのだ。

eBoxは快諾した。しかし、指定された場所は和室。
「会社からゲーミングノートパソコンを持ち込みました。Wi-Fiは、携帯のテザリングを使用して。通信量が軽いゲームを選んだので、それでできてしまうんです」と名取さんは話した。
講座は見事に大成功。市民センターの方も大喜びだったという。
市民センターの和室でできるということは、どこでもできるということだ。公的な事例ができたことでeBoxはたちまち話題になり、講座の依頼は現在も途切れることなく続いている。
講座が好評を博するのには理由もある。まず、その内容だ。eBoxが開催する講座は、“ゲームを楽しみましょう”という内容だけには決してとどまらない。
「親子講座はワンセット90分なのですが、最初の30分くらいはネットリテラシーなどの座学を行います。“インターネット上では本名ではなくハンドルネームを使いましょう”とか“相手の顔は見えないけれど人を傷つける言葉は使ってはいけないよ”といった話ですね」と名取さん。
この座学は、eBoxの講座で大切にしている部分だと中村さんは話した。
「eスポーツには、他のスポーツと同じようにルールがある。それは学校や家庭では教えられない部分なので、その枠組から外れている我々が正しく伝えなくちゃいけない。子どもたちも、先生じゃない人から言われると案外素直に聞いてくれます」
座学が終わると、お待ちかねのeスポーツの時間である。こちらも工夫が凝らされている。みんなでまず30分ゲームをプレイして、5分休憩し、そのあとにまた30分ゲームをする。休憩を挟むのにも理由があるのだと名取さんは言う。
「チーム戦のゲームをやると、最初の30分はやっぱりみんなギクシャクして喋れない。なので休憩の時に、“今、何がダメだったか考えてみよう”という時間を取ります」
この時間に「講座では自分のことを“ゲームのおじさん”と呼んでいます」という名取さんが大活躍する。
「さっき、おじさんが“声出しやチームワークが大事”って話したよね。スポーツと同じで、eスポーツでも声出すのが大事だよ!みたいな話をすると、後半は結構盛り上がるんです。それを見ている保護者の方たちも、いけいけー!って熱が入ってきます」

子どもたちの憧れの的、ゲーミングノートPC。触れて体験することができる。

eBox講座によって学びや体験を得ているのは、子どもだけではない。保護者にとっても新鮮な情報で溢れている。
「保護者の方から、“講座を受けて、子どもの言っていることがようやくわかりました”なんて言葉をいただいたことがあります。実際にゲームをプレイしている姿を見て、“そっか、いつもこういうことを家でやっているんだなとわかった“と。講座を通して、保護者の方の理解度も増すのかなという実感があります」
eスポーツによって、親子の相互理解が促進する。意外な効果であるようにも思えるが、これも名取さんの狙いの一つでもあるという。
「私としては、子どもたちって実はすごいことをやっているんですよということを知ってほしい。たとえば、ゲームをやるために自分でWi-Fiに接続して、ボイスチャットの設定もする。配信だって自分でやるし、そのために必要な機材のスペックや値段を自分の力で調べる。これって知識がないとできないことなんです。本当に子どもの吸収力には毎回驚かされてばかりですね」

システムズ社内にある配信者体験ブース。子どもたちはここで安全な配信者体験ができる。

創立50年目、子どもたちに伝えたいこと。子どもたちからもらうもの。

「子どもたちは本当に飲み込みが早い。初めて参加する子でも、ちょっと教えたらすぐに覚えちゃう。一応毎回キーボードの説明書を作っていくんですけれど、誰も見ません。もはや大人用です」と名取さんは笑った。
「子どもたちはトライアンドエラーで学んでいきますよね。説明書に書いてない操作だって、いつの間にか自分で発見している。私たち大人はすぐ人に頼ってしまうので、見習うべきところだなと思います」
ゲームの中で子どもたちはキーボードを動かして、失敗し、改善策を考えて、幾度もなく困難に立ち向かう。何度転んでも痛くないのがゲームのいいところ。だからこそリテラシーの講座が大事になるのだと中村さんは強調した。
「昔と違って、今はボイスチャットで子どもたちがコミュニケーションを取ります。“画面の向こうの友達の顔は見えないけれど、隣にいるのと一緒なんだよ”、“自分が言われて傷付くことを言ってはいけないんだよ”と正しい知識を教えていかなければならない。それを宮城でやっていくことに意味があると思います」
また、eBoxが教える“正しいこと”は単にインターネットの使い方だけではない。
「ゲームが好きだから、将来はゲーム関係の仕事をしたい。そう思った子どもたちにいろいろな選択肢があることも伝えたい。たとえばゲームを製作や実況する仕事もある。プロ選手のマネージャーのような仕事もあるし、配信みたいな裏方の仕事もたくさんある。そんな話を、意外とみんな現実味を持って聞いてくれます。子どもたちに夢をあきらめさせたくないので、そのきっかけを作りたいですね」名取さんは力強く語った。

eBoxの事業は、どこまでも子どもファーストだ。なぜそこまで子どもに寄り添うことができるのかとお二人に問いかけると、中村さんはにっこりと目を細めた。
「やっぱり、子どもたちのキラキラした顔を見ると、ああ、やってよかったなあ、またやろうと思うんですよ。会社として通信業を50年やってきて、やっと子どもとの接点ができたんです。そのつながりを大事にしたいから、eBoxを続けていきたいです」
子どもたちの夢と笑顔のために、“ゲームのおじさんたち”は今日も縁の下からeスポーツを支えている。

株式会社システムズ
宮城県仙台市若林区卸町二丁目5番4号
https://www.stm-systems.co.jp

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