建設業の担い手づくりは、宮城の未来をつくること。

Vol.28
宮城県土木部 事業管理課 建設業振興・指導班

宮城県にとって建設産業は非常に重要な役割を担う。震災後の復興需要を背景に、建設業や製造業は県内総生産の押し上げに寄与。社会インフラの整備や維持・管理にとどまらず、頻発する自然災害や家畜伝染病にも対応するなど、ニーズは拡大中だ。しかしその一方で、全国的な人口減少・少子高齢化の進展を上回るペースで、宮城県の建設業界においても、従事者の高齢化や若い技術者・技能者の新規入職の減少といった「担い手不足」が課題となっている。今後、震災復旧・復興事業の次のステージとなる国土強靭化政策の展開を見据え、中長期的な視野で課題解決のために日々取り組んでいるのが、宮城県土木部 事業管理課 建設業振興・指導班の千葉和哉主幹と金野加奈主任主査だ。

小中学生までを対象とした、新たな「担い手づくり」のスタート

「世の中にとって建設業はなくてはならないもの」と話す金野さん。
「子どもたちの希望や夢を、大人が伸ばし、実現してあげるような環境をつくるべき」と考える千葉さん。

千葉さんと金野さんが所属する宮城県土木部 事業管理課では、広報・PRイベントなど、さまざまな施策を通しながら、県内の小中高生に向けて建設業入職の呼びかけを行っている。
「建設業従事者の高齢化と若年入職者の減少が進めば、需要があっても供給が追い付かなくなってしまいます。今すでにバランスが崩れ始めているので、危機感を覚えますね」と千葉さんは話す。
金野さんは、「世の中にとって、建設業は“なくてはならない”もの。県では二次産業にフィーチャーし、小中高生を対象とした交流型や入職体験型のイベントを実施しています。建設業の魅力を若い人たちにどんどん伝えていきたい。宮城の建設業を未来まで持続・発展させていくのは私たちの使命、いや責務だと思っています」と続けた。
それにしても、建設業入職を呼びかける対象が、小中学生にまで及んでいるのは一体どういうことだろう。小中学生の頃から就職や進路について考えているような生徒が果たしてどれくらいいるのか。この疑問に対し、千葉さんは答える。
「たしかに、これまで県で展開してきた建設業の担い手確保・育成事業は、小中学生にまでアプローチできていませんでした。しかし、調査を進めていく中で、小学生のなりたい職業ランキングで“大工さん”は常に8~10位を占めていることが分かったのです。理由として最も多かったのが、“自分の手でモノをつくるのがカッコイイ”という声でした。つまり、子どもたちにとって建設業は憧れの職業なのです。こういった子どもたちの潜在的な希望や夢を、そのまま入職に結び付けられる環境をつくっていくべきだと考えたのが、対象年齢引き下げの理由です」。
金野さんは千葉さんの話にうなずきつつ言葉をつないだ。
「今の子どもたちの進路傾向は、どうしても受験一本になりがちです。就職についても、いわゆる“サラリーマン”以外の選択肢があることを知らない。だからこそ、“こういう仕事もあるんだ!”というポジティブな気づきを、子どもたちに届けていきたいですね」。

ICT化と、人の手。進化と普遍性を描いた入職促進支援動画

「建設業入職促進支援動画」撮影現場の様子1。設計図面に照らし合わせて、現場の進捗状況をチェック。
「建設業入職促進支援動画」撮影現場の様子2。左官職人の壁塗り。

宮城県土木部 事業管理課では、小中学生から高校生までを主な対象とした「建設業入職促進支援動画」を制作し、YouTubeで配信している。今後はこの動画を広く知ってもらうため学校などにチラシやポスターを配布するほか、イベント会場で放映するなどして、職業としての建設業の知名度とイメージの向上を強めていくという。千葉さんと金野さんは動画の撮影に毎回立ち会い、建設現場の空気を体感し、また働く人たちの姿を目に焼き付けてきた。そこで、動画への想いについて聞いてみることにした。
「とび職のスピーディーに足場を組む動き、設計職の頭脳作業、左官職の壁塗り…取材した職種の従事者の皆さんの誰もが五感で仕事をしていました。視覚、聴覚、触覚など、あらゆる感覚を研ぎ澄まし、現場で輝きを放っている。“これは絶対に替えが利かない仕事だな”と感じましたね。職人のカッコよさを、もっと多くの人に知ってもらいたいという想いです」と千葉さん。
金野さんは「動画では、出演者である職人の皆さんの仕事風景のほか、休日や休憩時間など普段のありのままの姿にもスポットを当てて紹介しています。現場での凛とした姿と普段のリラックスした表情などのギャップから、印象論ではない,建設業とそこに従事する方々の本当の姿を伝えていきたいと考えています」と。
昨今、国土交通省が提唱した『i-Construction』(ICTの全面的な活用などの施策を建設現場に導入することにより、建設生産システム全体の生産性向上を図ること)を背景に、建設業のICT化が加速している。IT志向の若い人たちへの訴求を図るべく、動画でもICT化についてふれている。
「対象年齢を小学生まで引き下げてから、入職促進を目的とした動画はこれがはじめて。ICT化により変わっていく部分と、人の手でつくるという変わらない部分との両方を、建設業の今とこれからの魅力としてシリーズ化し、伝えていきたいです」と千葉さん・金野さんは動画への想いをさらに熱くした。

県を挙げて、建設業のブランド価値を高めていく

県内の建設業事業者も、それぞれが担い手確保・育成に向けて取り組んでいる。新卒採用を毎年必ず実施して学校側との信頼関係を築いたり、地域貢献・まちづくり面やSDGsを切り口とした企業PRを強化して学生たちの関心を向けようと努めたり。県も基本的に採用活動は各事業者の自助努力に委ねているものの、支援には意欲的だ。千葉さんがその意欲を語ってくれた。
「県としても建設業の捉え方を変えていく必要があると思っています。これまでの私たちの建設業の捉え方は、発注者視点によるものでした。関わる人も、直接の契約相手である元請の現場代理人がほとんどで、実際に造り上げる工程を担う方々が十分に脚光を浴びる機会は比較的少なかったかもしれません。すると、地域づくりやまちづくりを学ぶ学生たちは、ますます地域の建設業へ関心が向かなくなり、結果として業界は担い手不足になる、という悪循環に陥っていました。そこで、まずは県が“地域のために”という視点を持ち、地元に還元するというマインドを持たなくては、と思いましたね」。
金野さんも、「具体的には、特に建設業者の良いところを積極的に発信したいと考えています。職人のカッコよさはもちろんですが、インフラ整備や災害時の対応という意味で”地域の守り手”と称され、多方面にわたり活躍する建設業が、地域社会で確固たる地位を築いていくこと、ブランド化をサポートしていきます」と話してくれた。

「住んでよかった」と思える宮城県を目指して

「宮城の建設業を支えることが、県民の生活を守ることになるのです」。千葉さん・金野さんの奮闘は続く。
宮城の建設業の実績1。2019年春に完成した震災復興のシンボル『気仙沼大島大橋』。
宮城の建設業の実績2。利用者一人ひとりの意思を尊重した施設障害福祉サービス等を提供する『宮城県船形の郷』。
宮城の建設業の実績3。2022年4月21日、仙台市・藤塚地区にオープンした癒しと食の総合リゾート『アクアイグニス仙台』。

最後に、建設業を支援する立場から、まず千葉さんに今後のビジョンを語っていただいた。
「建設業従事者の皆さんは、一生活者として頼るべき存在。つまり、私たちにとって必要な人たちなのです。支えがなくなってから慌てるのではなく、今のうちから建設業がもっと社会的に認知され、評価されて、自ら担い手となる志ある方に誇りを持って選ばれる職業であり続けられるよう応援していきます。それが、県民の生活を守り、支えていくことになるからです」。
金野さんは、「保護者の皆さんの理解も必要だと考えています。世界にひとつしかない重機を搬入し、親子で参加できるみやぎ建設ふれあいまつりなども実施しました。大切な建設業を支えていくためにも、県民みんなでその魅力や価値を共有できればいいな、と思います。それが「生まれてよかった」「育ってよかった」「住んでよかった」と思える宮城県(富県宮城)につながっていくと確信します」。
地域に、そして宮城にとって、建設業はなくてはならない仕事。日常のあちこちに、建設業従事者たちの仕事が、矜持が息づいている。こういった気づきが、県民のあいだに広がっていくことを願う。

宮城県土木部 事業管理課 建設業振興・指導班
住所:宮城県仙台市青葉区本町3丁目8-1
TEL:022-211-3116

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