歴史ある「蔵のまち」の魅力を再発見。 地元民と連携して挑むまちづくり。

Vol.16
株式会社まちづくり村田

宮城県の南部に位置する柴田郡村田町。仙台市をはじめとする3市4町に隣接し、アクセス良好ながら白石川や蔵王連峰など、豊かな自然にも恵まれた土地だ。江戸時代には都市部との紅花交易で華々しく栄えたこの町は今、古き良き面影を残す「蔵のまち」として再び注目を集めている。再起の要となったのは、同町の観光案内所を運営する「株式会社まちづくり村田(以下、まちづくり村田)」。取締役マネージャーの関場友紀さんに、地元活性化を目的としたさまざまな挑戦について伺った。

都会への憧れと、地元への愛着のはざまで

「人口減少のまちから人口増加のまちへ」。少子高齢化や人口減少といった村田町が抱えるさまざまな課題を、村田町の住民とともに解決し、元気で豊かな村田町を実現するため、2017年4月に誕生した「まちづくり村田」。官民連携で設立されたいわゆる「第三セクター」として、観光案内所を拠点に活動している。同社取締役マネージャーの関場さんは、村田町で生まれ育った生粋の「村田人」だ。幼い頃から培われた地元愛について尋ねると、「地元は好きでしたが、娯楽も少なく、やっぱり若い頃は都会への憧れがありました」と意外な答えが返ってきた。

「村田町の人口がだんだんと減っていき、漠然と『この町はどうなるんだろう』と思っていました。ただ、当時はどちらかといえば自分には関係ない…というか、『誰かがどうにかするんだろう』と他人事のように考えていましたね」

「まちづくり村田」の事業所を兼ねた観光案内所は、村田町観光PRキャラクター「くらりん」が目印。

関場さんは進学のため、憧れの関東へ。しかしこの上京こそが、地元の魅力を再発見するきっかけとなる。村田町での暮らしと、都会での暮らし。どちらも経験したことによって、「自分には村田町の暮らしが合っている」と思えるようになったという。その後村田町にUターンし、町の観光案内所の臨時職員として働き始めた関場さんは、ずっと地元に住んでいるとなかなか気づくことができない、さまざまな町の魅力を発見していく。例えば、町の中心部にいくつも残る店蔵。かつての商都としての賑わいを感じさせる豪勢な店蔵を、わざわざ遠くから見に来る人がいる。「こんな素晴らしい蔵があるなんて知らなかった!もっとPRした方がいい」と言われ、昔から当たり前にそこにあるものが、実はとても価値のある「資源」であることに気づいた関場さんは、「ただ寂れていくだけの地元を、黙って見ているだけなのは悔しい」と強く思うようになる。

重厚な店蔵と門が一対となり、連続する景観が印象的な村田の町並み。

空き蔵の活用、移住・定住促進…、「まちづくり村田」の挑戦

関場さんは「まちづくり村田」の最初の社員となり、蔵めぐりを主とした観光案内のほか、移住・定住促進、空き蔵・空き家の活用などの取り組みを始めた。村田町を活性化させるために、「まずはなんでも、とにかくやってみる」というチャレンジ精神でアプローチを続けてきたという。

「当時、地域内には『どうせ頑張っても無理だろう』という雰囲気が漂っていました。ですが私たちは、チャレンジせずに諦めるのはまだ早いと考え、ニュートラルな視点で村田町の良さを捉え、発信できるよう取り組んできました。活動を続けていくうちに、実直に頑張っている地元企業や、村田町で生きる人々の魅力的な一面がどんどん見えてきて…。やっぱり素晴らしい町なんだと再確認することができました」と関場さん。

特に大きな成果があったのは、空き蔵の活用事業だ。「まちづくり村田」が仲介人となって、「空き蔵を活用してほしい」所有者と、「空き蔵で店を開きたい」事業者をマッチングする。必要に応じてリノベーションのサポートや補助金のアドバイスなども行い、サブリースという形でテナントを誘致していく取り組みだ。蔵の所有者は高齢者が多く、貸したいという意欲があっても煩雑な交渉や契約はなかなか難しいというのが実情。この部分を蔵の知識を持った「まちづくり村田」が代行することで、トラブルを防ぎ、蔵の魅力を守りながら有効活用できる。現在は、店蔵を活用したセレクトショップ「余白YOHAKU」と、カフェ「Le Cocon 藍」の2店舗がオープン。蔵の雰囲気を楽しみながら食事や買い物ができるとあって、観光客にも好評だ。最近では事業者だけではなく、農業を始めたい人などのセカンドハウスとして、村田町の空き家や空き蔵を使いたいという問い合わせもあるという。

村田町の知名度が高まる契機となった「重伝建」とは?

村田町はかつて、仙台と山形を結ぶ街道の分岐点として栄えた商家町だった。村田商人たちは、当時金と同等の価値があったとも言われる紅花や、染料として人気の藍を仙南地方で買い集め、江戸や京都、大阪へ運んで商売を行い、繁栄をきわめた。そのため、蔵のほとんどは店蔵であり、火事で商品が燃えてしまわないよう、防火対策として土壁が使われている。店蔵だけではなく貯蔵用の内蔵を母屋の奥に備えた家屋も多く残っており、まさに「蔵のまち」と言えるだろう。しかし、昔ながらの資材・工法で作られているがゆえに、維持管理に相当なコストがかかることが最大の課題だった。

「東日本大震災でこの町も大きな被害を受けました。それまで蔵をなんとか維持していた人も、修理や今後にかかる費用を考えると、『解体するしかない』と判断せざるを得ないケースも。震災後、村田町の蔵はだいぶ少なくなってしまいました」

店蔵の多くは厚い土壁で覆われた土蔵造り。

所有者の負担を減らしつつ、蔵を保存する手立てはないかと考え、村田町は「重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)」の認定を受ける手続きを進めることにした。保存地区として認められることで、町の景観を守るための外観の修理に補助が出る。それは所有者だけではなく、地域全体にとっても大きなメリットだ。スピーディーに動いた結果、晴れて「重伝建」となった村田町だが、さらに予想外の効果も実感する。

「保存地区となったことで知名度が上がり、古い町並みや伝統的建造物を好む方々が村田町に訪れるようになりました。全国を旅して巡っておられるマニアの方もいらっしゃるので、これは嬉しい効果でした」と関場さん。近代の市街化や都市開発を逃れ、特徴ある歴史的風致を良く残している村田町の魅力を大切に守っていこうと、地元の人々の意識も前向きになっていった。

蔵の存続を脅かす、地震やコロナとの闘い

保存地区として価値を高め、地域活性化を図る一方で、「まるきり昔のまま、蔵を残し続けられるわけではない」と関場さんは話す。

「土蔵造りは防火に優れていますが、地震にはとても弱いんです。東日本大震災のときも痛感しましたが、2021年2月、2022年3月にそれぞれ発生した福島県沖地震でもかなりの被害がありました。今も一部ブルーシートがかかっているのは、漆喰のかけらが落ちてきて危険だからです。昔ながらの資材を使っているのでおいそれと簡単に直せるものではなく、修復工事は始まっていますが完了までは長い道のりです」

その上で、今後も大きな地震があることを見据えて修復方法が検討されている。完全な元通りを目指すのではなく、見えない部分で地震に強い材料を使うなどして地震対策を施すことで、被害を最小限にとどめる方針だ。現代の災害からも蔵の町並みを守るため、町と地元業者や所有者との話し合いが進められている。さらに、「余白YOHAKU」、「Le Cocon 藍」の2店舗がオープンするタイミングでコロナ禍に突入し、大々的な集客の告知ができない状況が続いた。それでも「まちづくり村田」と地域の人々は、独自の感染予防対策マニュアルを作り、国の基準を守った小規模イベントを開催するなど地道な活動に尽力。「蔵のまち」村田の注目度は日に日に増していった。

観光地としての魅力を高め、町に人を呼ぶ

「村田町の素朴な雰囲気がいいね、と言ってくださる方もいますが、せっかくこの町に来てくださった方が少しでも楽しめるように、今後はもっと観光地的要素を増やしていきたいです」と語る関場さん。昨年から、地元企業とコラボした商品開発も行っている。例えば国外からも評価を得ている「グリーンパール納豆本舗」と共同で開発した「納豆カルネ」。宮城県産大粒納豆を使用し、鶏肉と香味野菜で仕上げた旨味たっぷりの味わいは、ご飯のお供やパスタソースとしてはもちろん、パンや豆腐、チーズに乗せたり、炒めものの味を決める調味料としても優秀だ。また、「しろこうじ」「あかこうじ」は、村田産の米を使い、仙台味噌由来の乳酸菌醗酵で風味を高め、独自製法で作った塩糀と醤油糀。塩分を大幅カットして作っているためヘルシーで、炒めものや煮物 和え物の隠し味などどんな料理にも使えると評判だ。どちらも村田町を訪れた際のお土産として、広く周知していきたいと話す。

これからも「まちづくり村田」として商品開発に力を入れながら、いろいろなアンテナを張り村田町に人を呼ぶ仕掛けを行っていくという関場さんに、村田町の魅力を尋ねてみた。

「村田町は、『ちょうどいい』町だと思っています。30〜40分車を走らせれば仙台へ行ける利便性と、のどかな田園風景が広がる田舎っぽさをどちらも備えている。便利で刺激的だけど窮屈な都会暮らしを経験した自分にとって、この町の『ちょうどよさ』はとても魅力的。もちろん都会と田舎でメリット・デメリットはそれぞれあるのですが、どちらも知る人たちから村田で暮らしてみたいな、と思ってもらえたら嬉しいです」

「暮らしてよし、学んでよし、耕してよし、働いてよし、遊びに来てもよし」のまちづくりを目指したい、と関場さん。

株式会社まちづくり村田
住所:宮城県柴田郡村田町大字村田字町43番地
TEL:0224-87-6990