ご当地サイダーで地域を元気に!アイデアと地域創生へのおもい弾ける、オリジナル飲料メーカーの挑戦
Vol.45
トレボン食品株式会社
夏の風物詩といえば、「ラムネ」を思い浮かべる人も少なくないだろう。子どもの頃、真夏の炎天下の中を走り回って遊び、帰ってきたときにキンキンまで冷えたラムネを見ると、胸が躍ったものだ。
そんな懐かしのラムネを仙台市内で唯一のメーカーとして製造する、トレボン食品株式会社。1950年に創業し、「良質で安全な商品をお客さまにお届けする」をモットーに漬物の素、果汁飲料や炭酸飲料などもつくり続けている。 中でも注目したいのは、地域の名産品とコラボした豊富なラインナップのサイダーだ。牛タン、ずんだ、おはぎ、地酒といった仙台・東北の名産品から、近年では宇都宮の餃子ともコラボし、とてもユニークなオリジナルサイダーを開発・製造・販売している。
今回は代表取締役社長・鶴戸満昭(つるとみつあき)さんに、事業の戦略やアイデアを生む秘訣や、地域の名産品とコラボする理由などをインタビューした。
その数100種類以上!「あなたの知らないサイダーの世界」を消費者へ
取材では、とにかくオリジナルサイダーの種類の豊富さと、斬新なアイデアに驚いた。インタビュー場所となった事務所のショーケースには、オリジナルサイダーのサンプルがズラリ。
そのラインナップは、『仙臺 牛たんサイダー』と称した牛たん味のサイダーから、ずんだサイダー、秋保名物・おはぎ風味のサイダーなど仙台の名物とコラボした数々のご当地サイダーに始まるが、それだけではない。宮城県富谷市の『ブルーベリーサイダー』や栃木県宇都宮市の『いちごのカレーサイダー』『餃子サイダー』といった、他地域のご当地サイダーも手がけ、「あなたの知らないサイダーの世界」として消費者へ提供しているのだ。
もちろん通常(?)のサイダーや瓶ラムネもあるのだが、オリジナルサイダーだけでその種類は100以上にも及び、毎年のように開発依頼を受けているそう。
一体なぜ、これだけの数のユニークなサイダーを継続的に生み出すことができるのだろうか。
品質に対し誠実に向き合うこと。それがユニークなアイデアをカタチにする力へ
トレボン食品の原点は、創業者・鶴戸満雄氏が独自に研究開発した「なす漬けの素」にある。昭和の時代、特に主婦層から厚い支持を受けた商品で、今もスーパーマーケットなどの店頭に並ぶロングセラー商品だ。
大きな特徴は色鮮やかな紺の発色の持続性や、カビの発生を遅らせる作用、さらに毒性がないことだという。やがて「なす漬けの素」は科学技術庁長官賞を受賞する。
鶴戸社長は、この創業時からの研究開発への情熱やスピリットが受け継がれているからこそ、オリジナルサイダーの開発など、新しいことにチャレンジする精神を堅持できているのだと思う、と話す。
「特に今の時代は、消費者の食品に対する目が厳しくなっていますからね。チェックリストを用いた衛生管理や生産工程におけるルールの徹底は、あたりまえのこととして行っています。あたりまえのことを、あたりまえにやる。品質管理は、それを徹底することに尽きますよ」。
そこには飾らないけれども、食品製造に携わるプロフェッショナルとしての誇らしい表情があった。
トレボン食品の安全・安心な品質に対する誠実な姿勢は、その後の長年にわたる商品開発・OEM製造とともに磨きがかかっていく。この品質技術の土台があるからこそ、ユニークなご当地サイダーを安定かつ継続的に生産できるのだろう。
大手は大量生産、中小は「多品種・小ロット」での勝負。だから、知恵を絞る
トレボン食品は中小企業であるがゆえ、大手メーカーのような大量生産はできない。いわゆる「多品種・小ロット」での勝負を余儀なくされる。ご当地サイダーのような独自性にあふれた事業の展開は、成長戦略においては必要不可欠だ。
「ご当地サイダーのターゲットは、観光客に照準を定めました。訪れた人たちが洒落の効いたラベルのサイダーを見つけて面白いと感じ、お土産として買って行ってもらう戦略です。そしてその経済効果が地域創生に貢献できたら、喜ばしいことだと考えました」と鶴戸社長。
2016年8月23日放送分・TBS『マツコの知らない世界』でご当地サイダーが紹介されたが、放送後は観光客を中心に飛ぶように売れ、売り上げが10倍になったという。
「マスコミ効果を実感しました。ただ、テレビへの露出効果によって大きくアップした売り上げは、2ヶ月ほどで元に戻ってしまったのです。広告効果が一時的だということは、よく理解しておく必要があると思いましたね。また、多品種小ロットのため、需要と供給のバランスや、きちんと利益が出る価格設定などには、やはり頭を使います」。
「いずれにしても、我々中小企業は、独自の戦略がなくては事業を継続的に展開させることはできません。だからこそ、オリジナルサイダー事業を守り続けていきたい」。
ユニークなご当地サイダー事業は、中小企業にとって必然的に求められる知略が結実したものだった。
地域創生こそがブランド・アイデンティティの大きな要素
一方、鶴戸社長はご当地サイダーを活用した社会貢献活動にも積極的である。
東日本大震災の復興支援商品として開発した『がんばろう!日本サイダー』は、過去最高に売れたサイダーの一つになった。被災地を助けようと全国から問い合わせや注文が殺到し、売り上げの一部は復興のために寄付された。
「被災地を笑顔にしたいとのおもいで私たちも必死でしたが、少なくともこの経験から、ご当地サイダーの可能性を見出すことができたのはたしかです。これからの事業展開に、手応えを感じましたね」と鶴戸社長は振り返る。
社会貢献活動は、ご当地サイダーをはじめとするトレボン食品のブランドに、アイデンティティともいえる重要な「意義」をもたらした。
その後、「こどもの貧困問題」に取り組むNPO法人アスイクに、製品のシャンメリーを寄付したり、同社が主催する職業体験にも協力したりしながら、CSR活動にも参加している。
そもそも、ご当地サイダーは地域の名産品とコラボすることから、PRに大きく貢献しうる商品だ。しかし、「サイダーで地域を笑顔に、元気に」という地域創生のおもいが根幹にあるからこそ、ご当地サイダー・ブランドは社会との良好な関係性を築き、人々から愛されるのである。
面白いアイデアの誕生は、形式にとらわれない環境づくりと人づくりがあるから
ご当地サイダーは、基本的にコラボ先との共同作業から生まれる。
豊かな田園風景で知られる宮城県登米市の日本酒『澤乃泉』とコラボしたサイダーは、石越醸造株式会社、一般社団法人カイタク、トレボン食品の3者共同で開発・製造・販路開拓などを行ったもの。澤乃泉の酒粕を使った、ノンアルコールの日本酒サイダーは大変珍しく、評判も上々だ。
ノンアルコール飲料といえば、宮城県松島の酒屋むとう屋と開発した『松島梅サイダー』『松島サイダー苺太郎』もある。
「お客さん(コラボ先)の要望をよく聞きながら、試行錯誤を繰り返し、飲料として水準を満たすクオリティの製品をつくるのは決して容易ではありません。そこで必要になってくるのが、従業員の力です」と鶴戸社長。
インタビューは自社内の環境づくりと、人づくりの重要性に話題が及んだ。 まず、柔軟な発想のアイデアを多く生む秘訣は何なのか、と質問。
鶴戸社長は、
「新商品開発にあたり、多くの企業では会議を開催すると思いますが、私たちはそういうことを一切やりません。形式的な会議から、自由で面白い発想は生まれないと考えています」。
「私たちが大切にしているのは、日常のコミュニケーション会話の中でアイデアを出し合うということ。友達と一緒に遊んだり、お酒を飲みに行ったりするような感覚で、こんな新商品があったら面白いよね、とアイデアを出し合うことが、持続の秘訣ですね」と痛快に答えてくれた。
たしかに、ご当地サイダーのアイデア一つひとつが、形式ばった会議から生まれるとは、到底思えない。自由な発想を促すための環境づくりがあってこそ、面白い商品が出来上がるのだ。
昨今、製造業も例外なく、あらゆる業界で人材不足が深刻化している。トレボン食品でも人材面での課題があるかどうかを最後に聞いてみたが、鶴戸社長からは意外であるとともに、学ぶべき答えが返ってきた。
「人材不足について、課題意識は全くありません。歴史があり、仙台市中心部に位置しているという意味で立地条件も良いので、人材を育てやすいと思っています」。
「その証拠に、私たちは障がいを持った方の雇用も行っていますが、もう20年以上、勤めてくれています。コミュニケーションを大切にしてきた結果ですね」。
「人材育成において重要なのは、人の長所と短所を見抜くこと。アイデアを出すのが得意な人、品質管理や技術面で優れた人…それぞれの得意分野の見極めこそが、会社に厚みをもたらし、成長のカギになると考えています」。
アイデアを生み、カタチにするのは難しいこと。それでもトレボン食品が無責任な思いつきに陥ったり、インパクト至上主義に偏ったりすることなく高品質でユニークなものづくりができる秘訣は、従業員が伸び伸び働ける環境づくりと、長所を伸ばし適材適所を実現する人づくりにあった。
トレボン食品株式会社
住所:宮城県仙台市宮城野区小田原2丁目3-18
TEL:022-256-4137