宮城大学大嶋研究室・地域活性化リーダーを考えるシリーズ2 ー 株式会社Wasshoi Lab 齊藤 良太代表取締役

Vol.39
株式会社Wasshoi Lab 齊藤 良太代表取締役 ✖️ 宮城大学 大嶋研究室
宮城大学事業構想学群の大嶋淳俊教授の研究室では、復興再生・地方創生を牽引する魅力的な「地域活性化リーダー」に対し、「リーダーシップ(リーダーのあり方、信念、リーダーシップスタイル、他者との連携等)」に焦点を当てて、取材・ヒヤリング・考察を行い、論文にまとめていくというユニークな取り組みを始めている。シリーズ第2回目は、株式会社Wasshoi Lab 齊藤 良太代表取締役に、「地域活性化リーダー」のあり方を聞いた。(敬称略)

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株式会社Wasshoi Lab 齊藤 良太代表取締役
1982年、宮城県仙台市生まれ。2005年San Francisco State University社会科学部 国際関係学科卒業後、富士通株式会社に入社。3年後に日本マイクロソフトに転職し、2015年退職。2011年3月11日の東日本大震災がターニングポイントとなり、2016年、地元宮城県にてVISIT東北を設立。
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事業構想学群 / 事業構想学研究科 大嶋淳俊 教授
三菱UFJ系総合シンクタンクにて民間コンサルティングと政府系事業に従事。APEC経営人材育成事務局出向。いわき明星大学教授を経て、宮城大学事業構想学群 /事業構想学研究科 教授。博士(人間科学)。デジタルx戦略xリーダー育成を研究。復興支援・地域活性化のために商品開発・観光PR動画制作・デジタルマーケティング・地域ブランディング等の産官学連携PBLプロジェクトを多数実施。キャリア・インターンシップ教育も推進。
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■自分の持てる力を試すために、地方創生事業を立ち上げる

学生:御社のご活動の中で、特に地方創生、地域活性化に関する事業について教えていただけたらと思います。特に、東日本大震災以降の12年で、その時々に力を入れた取り組みと、どのようにリーダーシップを発揮されたかについてお願いいたします。

齊藤:第1期と言える2011年から2015年までは私は国内の大手IT企業で会社員として仕事をしていました。震災の日にたまたま地元東北に出張で戻っていました。すさまじい被災状況に衝撃を受けましたね。故郷ですので、できる限りのことをしようと被災地の泥かきや避難所でのお手伝いなどボランティア活動を続けました。「自分のできることは何なのか」みたいなことをすごく考えるようになったパラダイムシフト期というか、自己変容があった時期です。満を辞して創業しようと決めたのがまさに2015年で、自分の持てる力を試していくために、自分自身の信念みたいなものをその創業に定めました。リーダーシップっていうよりもこれはもう自分自身に対する自分自身のコントロールというか、齊藤亮太という一個人に対してリーダーシップを発揮し、周囲も巻き込みながらやるぞと創業したのが、この入口の時期ですね。

学生:いろいろな方々を巻き込んでいくような、強いリーダーシップを発揮されたんですね。

齊藤:そうですね。事業計画書もしっかり作って、出資してもらえるよう株主を説得しました。巻き込みみたいなところにチャレンジしたのがこの第1期だったと思います。

2016年には、「株式会社Wasshoi Lab」の前身「株式会社VISIT 東北」を設立しました。「かっこいい東北」をビジョンに、地方創生コンサルティング事業、観光開発事業、観光コンサルティング事業(地方自治体対象)、オンライントラベル予約サイト運営事業などを展開してきました。この第2期と言える2016年から2019年というところに関しては、自分が培ってきた社会人としての能力をどう発揮していけるかにチャレンジした4年間だったと思っています。リーダーシップのタイプでいうと、「俺についてこい」的なリーダーシップだった感じですかね。自分でリードする案件を取ってきて、知っていることをどんどん教育して、みんなを引っ張って、とにかく突破する。2019年までの4年間で、社員50名、年商が5億弱というところまで会社を急成長させました。「地方創生」というものを事業のドメインとして、インバウンド・観光、広告事業、あとは地域商社ということを丸森町に拠点をおいて推進しました。

学生:地域創生を軸に会社を急成長させたのが第2期だったわけですですね。

故郷で地方創生のための会社を立ち上げよう。この想いを胸に「株式会社Wasshoi Lab」の前身である「株式会社VISIT 東北」を設立した齊藤代表取締役。「かっこいい東北」をテーマにインバウンド事業・観光事業等を展開している。

■組織改革を進めるために見直したリーダーシップのあり方

齊藤:2019年の丸森町を襲った台風19号の被害やコロナ等があって、初めて会社は苦境に立たされました。社員が50人くらいの規模になって、事業は壁にぶつかった感じでした。

大嶋:起業の過程で、よく30人の壁とか、50人の壁とか言われますからね。

齊藤:何か負のスパイラルに一気に入ってしまったのが、この第3期ですね。人間って弱いもので、初めは何か自然災害とか、コロナとかを言い訳にしていました。でもある時「何か違うぞ」と思い始めたんです。他の経営者は別にコロナだろうが、何か自然災害が起きようが、さっと解決して、次に向かっている人たちがいます。近くにインバウンド事業を成功させている人たちもいます。だとすると、この苦境は外的な問題ではなく、自らのリーダーシップのあり方が問題ではないのか、と思い至ったのです。

大嶋:コミュニケーションのあり方や、リーダーシップの取り方に問題があるところに気づき、組織改革と自己改革を進めるために新たなリーダーシップ像を模索し始めたというわけですね。

齊藤:そうです。2021年から2023年まで、この3年間かけて、「何であんなことを言ってしまったんだろう」とか、「何であんな行動をとってしまったんだろう」と少しずつ自分のあり方、自分の思考の仕方を見つめ直し、変革しています。今はまだ発展途上ですが、苦悩しながら、そしてリーダーシップのあり方を見つめ直しているところですね。

学生:お話を伺って、2020年以降、コロナ禍で社会情勢の変化する中で、ご自身のあり方も変わっていくという部分が非常に印象的でした。そう言った意味では日々、ご自身が目指すリーダー像というものも変化している途中なのかなと思いました。

「株式会社Wasshoi Lab」が進める地方創生事業は、話題を集め様々な賞を受賞している。

 

■「良くする」という一貫した自分の本質を見つめて

学生:取り組みを続けられていく中で、ご自身、ご自身の信念や思い、リーダーとしてのあり方について一貫している面と、部分的に変わってきた面があると思うのですが、そのあたりはいかがでしょうか?

齊藤:全ての意思決定において共通しているものっていうのがあって、それによってやっぱり一貫性って生まれると思っています。その意思決定の変わらない部分が自分の本質だと思っていて、私にとっては「自分自身を良くしていく」「社会を良くしていく」「地域を良くしていく」「仲間を良くしていく」という、何かを良くして今までを越えていくというあり方っていうのが、私自身の変わらない本質的な考えだと思っています。

学生:「良くする」ということが一貫した本質としてあるわけですね。

齊藤:ただ、自分が良くしようって思っていることを、相手に押し付けてしまって、そこで問題が起きたということもあります。やはり100人いれば100様あるので、自分の意見が通らないことが当たり前にあるわけですよね。それを押し付けたことで雰囲気とか環境とかを濁してたんだろうなというところは感じます。相手のパーソナリティとか、思いの源泉というか、相手側の本質の理解がないまま進めてしまったことによって、関係悪化がおきて、結果会社を去ってしまうということが起きたのだと思います。

大嶋:もしかしたら社員さんたちも、何か伝えたいことが十分伝えられないような関係性になっていて、それが急に表面化したというような面もあるんですかね。ただ、ちなみにその時に会社を去っていった人もいれば、残った人もいるわけで、その対応の違いの分かれ目はどのようなところだとお思いですか?

齊藤:それは私の分析でいくと、こういう大変な状況が好きな人が残ってますね。

大嶋:「危機にも対応するぞ」というタイプの人ということですかね。

齊藤:リーダーシップのあり方みたいなところを勉強したいという人か、あるいは齊藤のようなアプローチが好きか、という感じですかね。

大嶋:つまり、齊藤様のリーダーシップのスタイルに共感を覚えるタイプの人か、もしくは、そんな風に自分もなりたいなというところですか。そういうタイプの人たちは引き続き残り、なおかつ対話をその後深めていく中で、より関係性が深まったということですかね。

終わりのない人生自体がリーダーシップの旅だと考え、リーダーシップのあり方について熱く語る大嶋教授。

■他のメンバーとのコミュニケーションの取り方の見直し

学生:我々はリーダーシップの発揮にはリーダー個人のみならず、いわゆるフォロワーやメンバーの存在育成、周囲の人や組織とのネットワーク構築の充実が重要だと考えています。その面で心がけていることや工夫はございますか。

齊藤:工夫していることっていうのは、相手を理解するってことですね。大事なのは、結局その人の人生が豊かでないと、会社がいくら売上がよくても意味がないと思っています。「その人が、何をしたいのか」「その人のあり方ってどういうあり方なのか」。右腕と言われるナンバー2とかナンバー3の人や他の子会社の社長たちが、何を目指しているのかをしっかり理解したいということです。

大嶋:その人たちが何をビジョンにして生きているかということを可視化していくことが大事というわけですね。

齊藤:1日1日生きていく中で、いろんな出来事があって、自分に気づきがあってそれで常に磨かれていくわけですよね。なので、常に社員を見つめるコミュニケーションを取るようにしています。「やりたいことってこんな感じだよね?」「今やれてる?」という話もしますし、「全然やれてないです」「どうやってやればいいのかわからない」ということには、手助けをしますし、その目標に向かってみんなで追求してやっています。本当に家族と同じぐらいの形で、彼らとは関わっていて、毎月必ず「1on1(ワンオンワン)」の面談も開催しています。今どういう心境で、どういう感情で、どういう考えの変化があったみたいなことを確認しながら、相手に寄り添うということをやっています。

大嶋:相手との1on1の機会を定期的に持つことで、相手の考えの変化を見える化するということなんですね。

齊藤:あと工夫してるポイントがコミュニケーションの取り方です。日本の社会って基本的には、「あれやりなさい」「これやりなさい」という命令形コミュニケーションがほとんどなんですよね。このコミュニケーションの取り方が間違っていると気づいていて、コミュニケーションの仕方をしっかりと学んで、丁寧に相手と接するようにしています。「こうやった方がいいよ」ではなく、「自分だったらこういうふうにやるんだけれども、あなただったらどういうふうにこれを考えますかね」というように、コミュニケーションの丁寧さを大切にしています。コミュニケーションの仕方一つで、やっぱり相手の「心理的安全性(psychological safety)」も、自己開示力も変わってくるので、そこを意識しています。

学生:右腕の方々との関わり方やコミュニケーションの取り方という部分は、いかがでしょうか?

齊藤:右腕という人たちには常に自分の考えてることをシェアしていますね。彼ら彼女たちは常に「齊藤さんそれちょっと矛盾ありますよ」みたいなことを指摘してくれるのは、その関係性が築けているからだと思っています。日本だと、なかなか上司に言いたいこと言えないじゃないですか。社長が言ってることに対して意見を言うなんて、出世にもしかしたら響くかもしれないし、査定にも響くかもしれないし、普通怖くて言わないですよね。そこを変えていけたらと考えています。ナンバー2・ナンバー3とそういう関係値が築けているということは、すごくうちの会社の強みだと思っています。

大嶋:それはコロナ禍以降より強くなったということでしょうか?

齊藤:そうですね。一度組織崩壊の経験をして、自分のあり方を分析をして、周りを見ずにワンマンにぐいぐいやっていくリーダーシップは間違っていたと反省しました。やはり組織のあり方としては、関係性を大切にしないと駄目だなという気づきがあったので、今も勉強しながらその関係性づくりを大切にやっているところですね。

学生:自分の考えを必ずシェアされるっていったところが、とても大切なんだと思いました。外部の人や組織とのネットワーク構築で課題や工夫されていることはございますか。そして今後はどのようにされていきたいでしょうか?

齊藤:それもコミュニケーションのあり方ですね。お客さんに対してもそうですよ。自分の意見を一方的に押し付けるコミュニケーションは、何も生まないですね。やはりそのあり方っていうものをちゃんと意識して、誰とでも平等に傾聴の姿勢を持って接する、そういうことが大切だと思っています。

■HOWではなくWHY。「目的フォーカス」で事業を進めるリーダーシップ。

学生:御社の地方創生の事業は仙台・宮城・東北の地域ブランディング向上を目的にしていると思っています。これからの課題とそれを越えていく考え方、方策について教えてください。

齊藤:事業を考える上で、WHYとHOWがありますよね。WHYは目的で、HOWは手段ですね。その分け方でいうと。地方創生は目的ではなくて、手段だと思っています。では目的は何か?私個人の目的は「良くしていくこと」なんですよね。会社の目的は「志を持つ人と人でHAPPYな未来を創る」です。まさに「目的フォーカス」なんです、うちの会社は。Wasshoi Labという社名は神輿を担ぐときの「わっしょい」という掛け声から来ているのですが、目標に対して情熱を燃やせる主体性を持っている人がいるから、「わっしょい」と言って応援するし、スキルがなければ、スキルを提供するし、ネットワークがなければネットワークを提供するし、お金がなければお金を提供する。そういうあり方、そういう事業体を作っていこうと思っています。課題解決型ビジネスをベースにしていますが、それも手段です。課題解決型事業ではない事業などないと考えています。言ってしまえば地域の事業すべてが地方創生事業なんですよ。だからそこに対してあんまりこだわってないです。私たちには東北を良くしようという思いがあります。

大嶋:今、改めてお伺いして、創業当時はHOWを前面に出していて、今はその反省からWHYをより明確に意識されてるということでしょうか。

齊藤:まさにそうですね。

株式会社Wasshoi Labでは「志を持つ人と人でHAPPYな未来を創る」ために、立場によらず様々な仲間を募り、双方がWIN-WINになれる協力関係を築きあげたいと考えている。

 

学生:これから地域活性化リーダーを質量ともに高めていくためにどのような人材育成活動が必要か、産官学の視点があればそれも含めてお考えをお伺いできますでしょうか。短期的な施策、そして中長期的な施策の区別があれば、お教えください。

齊藤:地域活性化リーダーを育成していくためには、その人に主体性がなかったら何の意味もないと思いますよ。まず「自分自身が本当にそれをやりたいのか」という話だと思います。さきほど私がお話したような「あなたの本質って何ですか」というところから逆算して、あなたが人生かけてやりたいことってなんですか。それが地域活性化とか地方創生とかなのであれば、勉強して、トライして、失敗して修正してPDCAをひたすら繰り返していくしかないですね。結局「リーダーの器がやっぱその組織の器になる」ので、人間力というか目的に向かって深く考えるというか自分自身を深く考えるっていう縦の成長と、地方創生とか地域活性化とか産学連携とかというスキル面の横の成長、やはりどちらも大切だと思います。ただ単に「産学連携を学びなさい」とか、「地域に行って膝を突き合わせて地域の人から話を聞きなさい」とか、それはそれで必要なんだと思いますけど、それ以上にやっぱり自分自身のあり方をしっかりと追求するというバランスが、まさに質と量を高めていくことになるんじゃないかなと思っています。

大嶋:その1人1人の主体性がなかったら何の意味もないということは、本当に仰る通りだなと思います。

学生:幼少期からの「天命」というものをお持ちだったっていう話でしたが、人生の途中で何か懐疑的になったり、ちょっとぶれてしまったりということはございましたか。

齊藤:ないですね。最近答え合わせができたという感じなんですが、「なぜ自分はこういう意思決定をするんだろう」ということを考えで考えて考えて、考えついた結果がそれなんですよ。人生の中で思い出せる出来事ってあるじゃないですか。その出来事の中で「なぜ自分はそのときそういう気持ちだったのか」を追求したら、「自分自身が良くなりたいんだ。誰かを良くしたいって思ってるんだ」と思えるようになりました。

学生:ぶれない「根っこのようなもの持つ」というのがリーダーには必要なのですね。とても有意義な学びをいただきました。本当にありがとうございました。

◎本記事はシリーズにて掲載します。次回の「宮城大学大嶋研究室・地域活性化リーダーを考えるシリーズ3」をご期待ください。

株式会社Wasshoi Lab
住所:宮城県丸森町字町西22-2

宮城大学事業構想学群 大嶋淳俊 研究室
住所:宮城県黒川郡大和町学苑1番地1
TEL:022-377-8205

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