
仙台の発明王!音×半導体で唯一無二の製品を作る株式会社ミューシグナル
Vol.62 株式会社ミューシグナル
ひっそりと佇む町工場が実はとんでもない技術を持っていて、世の中をアッと驚かす大発明をする。そんなドラマを観たことがないだろうか。
ここ仙台の一角にも、世界で誰も真似できない技術を持った会社がある。
音響機器を開発する株式会社ミューシグナル。2017年に当時のクラウドファンディング最高額となる5400万円を集めリリースした『GODJPlus』は、後継機『FJ1』を自分たちで作るまで類似品すら生まれなかった。そのほかにも、地球最後のフルデジタルスピーカー『LOG』、世界初の1対複数の広範囲Wi-Fiオーディオシステム『ミュートラックス』など、個性豊かな機器を開発している。
「多分、どれもウチにしか作れない製品だと思います」
代表取締役の宮崎晃一郎さんは、控えめながらそう言い切る。「地球最後の」「世界初」という枕詞は事実であり、上述した機器はどれも類似製品が存在しない。
ミューシグナルはどうして誰にも作れないものづくりができるのか?
その秘密を解くヒントは、ズバリ“半導体”にあった。
工作少年が発明家になるまで
宮崎さんは生粋の仙台っ子である。北仙台で生まれ育ち、東北大学工学部を卒業したのち、イリノイ大学を経てモトローラへ半導体エンジニアとして就職。この就職先選びにも“仙台”が大きく関わっている。
「イリノイ大学を出た時はいろんな選択肢がありましたが、仙台に拠点があるという理由でモトローラを選びました。宮城県図書館のあたりに事務所があって、“北仙台から通勤楽じゃん!”って。それくらい仙台が大好きです」
仙台愛に溢れる宮崎さんの幼少期は、ものづくりと共にあった。
「小学校には工具の入ったバッグを持って行って、授業中も基板をいじったりロボットを作ったり、チョロQを分解したりしていました。先生も怒らずに諦めてたような、相当な問題児でしたね」
宮崎さんは、モトローラとその後に就職するベンチャー企業で半導体の開発に明け暮れる。
半導体はいまや私たちの生活に必要不可欠だが、開発は非常に難しく、自分たちの半導体・ファーストシリコンを生み出せないまま潰える会社も少なくない。そんな中、宮崎さんたちが設計した音楽再生用の半導体が、とある分野に採用された。
「遊技機、つまりパチンコ・パチスロ台です。高音質かつ既存の半導体より少しだけお金がかからない仕組みのチップを作ったらマッチングしました。何万台と数が出る遊技機では、わずかな値差が大きな数字になりますからね。そういうちょっとした“こうだったらいいのにな”に手を差し伸べる製品を作るのが我々です」
開発した半導体チップには、複数の音を重ね合わせて出すという非常に複雑な処理ができるポテンシャルがあった。その性能が小型DJ機器『GODJ』シリーズの開発にもつながっている。
「普通の音楽プレーヤーって同時再生する必要がないので、使うチップもシンプルなものでいいんです。でもDJ機器は、複数の音を再生してミックスをして、なおかつ音飛びさせない…という全く違う力が求められる。完成度の高い複雑な音を出そうとすればするほど、どうしても半導体の知識が必要になります。我々のチームは、半導体を見極める目を持っている人たちが集まっていて、それが精度の高いプロダクトを作ることができる理由だと思います」

2017年にリリースされた『GODJ Plus』。この1台で音楽の再生からミックスまでこなす、類を見ない製品。
誰もが求めて、誰もが開発を挫折した製品『ミュートラックス』
2023年、ミューシグナルは『ミュートラックス』を発表した。
Wi-Fiで飛ばした音を、複数の子機で同時再生できる。文字で表すとシンプルな機能の製品に思えるが、これまで複数のメーカーや企業が挑んでは跳ね返されてきた高い壁を乗り越えて完成した画期的な機器だ。
きっかけは、コロナ禍に定禅寺通りで行われた立ち飲みイベントだった。これまでより机同士の間隔を空けることを条件になんとかイベントは開催できたが、今度は場所によって聞こえる音楽の音量にばらつきが生じてしまった。困った主催側から宮崎さんに相談がきたのが開発のスタートだ。
「ちょっと調べてみますねって軽い気持ちで相談に乗ったんです。イベント会場なので、安全面でも見栄えの意味でも線は這わせられない。手っ取り早くワイヤレスで音楽を流すにはBluetoothだけど、それだと音が10メートルくらいしか飛ばないし、何より1台のスピーカーとしか連動できない。じゃあWi-Fiだなとリサーチを始めました」
不思議なことに、調べども先行事例は全く出てこなかった。
「“Wi-Fiで複数台のスピーカーに音を飛ばす”なんて、誰でも思いつきそうなのに誰もやってなかった。だからちょっと楽しそうだなとやってみたら、これがめちゃくちゃ大変でした。“うわー、だからみんなやらなかったんだ!”と後悔しましたが…そういう時こそ燃えるじゃないですか」
技術屋魂に火がついた宮崎さんを導いたのは、豊富な半導体の経験と知識だった。音ズレの原因のひとつが半導体にあることを突き止め、正確に問題を理解・検知し、修正を重ね開発に活かす。知識と経験が揃ったミューシグナルだからこそ、ミュートラックスを開発できた。
ミュートラックスは、音楽が流れるイベント会場はもちろん、工場、車両基地、商店街、水族館など、宮崎さんも想定していなかったような場所でも続々と導入が決定している。
「ミュートラックスもそうですが、誰かの困りごとを技術で解決できたらいいなというのが機器開発のスタートにあります。これからもまだ気づいていない課題がたくさん出てくるでしょうから、音と半導体で解決していけたらいいですね」

ミュートラックスを搭載したスピーカー『サウンドレール』。ダクトレールなどに引っ掛けてワイヤレスで使用できる。
仙台で技術力勝負ができる会社に
宮崎さんは今後も「仙台の企業であること」を大事にしたいという。
「仙台で技術を学んだ学生たちは、ほとんどが就職のために東京や大阪へ戻ってしまいます。私の同級生も、ほとんど残っていません。技術を活かせる場所がまだ少ないんです。だからこそ、仙台で就職したい学生が選んでくれるような、技術力勝負ができる会社になりたいです」
ミューシグナルでは大学生のアルバイトを受け入れている。ロボットコンテストに出る学生たちが毎年ミューシグナルで技術を学び、卒業を迎えるタイミングで自分が推薦する後輩を連れてくるという面白い習わしがいつしか出来上がっていて、ここ10年間は学生の出入りが途絶えたことがないそうだ。すでに仙台の学生たちの間では、ミューシグナルは欠かせない存在になっている。
「学生さんたちは怖いくらい優秀なので、そういった子たちが面白がってくれる製品をこれからも開発していきたいです。ずっとものづくりのことを考えているので、アイディアはとにかくたくさんありますから」
そう言って笑う宮崎さんに、夢中で基盤をいじる工作少年の面影を見た。仙台の発明王が次にどんな製品で私たちを驚かせてくれるのか、今後も注目したい。
株式会社ミューシグナル
宮城県仙台市青葉区上杉2丁目3-7 K2小田急ビル 4F
HP:https://www.musignal.co.jp/