課題を解決しながら、人とロボットがともに手を取り合い共働する社会へ。

Vol.23
アイリスオーヤマ株式会社ロボティクス営業部

アイリスオーヤマは、生活用品や家電を通じて、生活のニーズにあわせた商品を投入してきた。中身の見えるクリア収納、巻き取りやすく手が汚れないフルカバータイプのホースリール、室内のペットの臭いをクリーンに取り除く空気清浄機など、身近で使う商品を通して日常生活に新しい価値を提供し続けている。そんな「生活者の代弁者」としてのアイリスオーヤマが、新たな事業領域として法人向けBtoB事業の一つである「ロボティクス事業」に踏み出している。業界の革命児がロボット市場でどんな新しい戦略を考えているのか、アイリスオーヤマ BtoB事業グループロボティクス営業部長である吉田豊執行役員に話を伺った。


日本の課題をロボット✖️アイデアで解決したい

アイリスオーヤマ株式会社のイメージはどんなものか。アイリスオーヤマはメーカー機能と問屋機能をあわせ持つ独自の「メーカーベンダー」という業態を作り上げたと言われている。商品を小売店に届けるだけでなく、小売店の売場をコンサルティングしながら生活者の声をダイレクトにフィードバック。生活に密着して、生活に根ざした商品を作り続ける力がアイリスオーヤマの強みという印象だ。

そんな生活者に密着した製品を提供しているアイリスオーヤマだが、実は「BtoB事業」と言われる法人向け・事業者向けの製品も開発販売していて、その領域の広さに驚く。LED照明・建築資材・AIカメラ・スポーツ資材・施設内装・什器内装という分野など、ビジネスシーンにまでアイリスカラーを広げている状況だ。

その中でも今注目されるのがロボティクス事業。「私たちは社会の課題解決の手段のひとつとして、サービスロボットを提案しています。日本の未来をよりよくしていくために『ロボット×アイデア』で支援していきたいと考えています」とロボティクス事業にかける意気込みを語る吉田豊執行役員。
アイリスオーヤマのロボティクス事業は、実はAI除菌清掃ロボット「Whiz i」などで実績を持つソフトバンクロボティクスグループとの連携によって生まれている。アイリスオーヤマとソフトバンクロボティクスグループは2021年2月に合弁会社アイリスロボティクスを設立し、業務用のロボットソリューションを提供している。
吉田執行役員は語る。「我々はずっと法人向けサービス・ロボット分野での市場創造に乗り出したいと考えていました。しかし、残念ながらAIの部分の知見がない。そこで、人型ロボット『Pepper(ペッパー)』の開発元としてAIロボティクス技術に定評のあるソフトバンクロボティクスグループとの提携を模索したのです。ソフトバンクロボティクスグループにとっても我々の新商品開発力と様々な業界における知見にメリットを感じてもらえたようです。お互いに相乗効果を期待しての連携が成立しました」。
ソフトバンクロボティクスは、世界最高峰のロボティクス技術を持っており、長年に渡るロボットコンサルティングのノウハウの蓄積もある。ソフトバンクロボティクスグループのAI分野での技術力とつながることにより、新たな面白いロボットができると考えたわけだ。

人型ロボット「Pepper(ペッパー)」で話題を呼んだソフトバンクロボティクスグループとの提携からロボティクス事業は始まっている


「ユーザーイン発想」で清掃ロボットと配膳・運搬ロボットに「アイリスエディション」

これまでアイリスオーヤマは、社員自らが生活者視点に立ち本当に必要なニーズを見つけ出す「ユーザーイン発想」でモノづくりを行なってきた。この発想はBtoB事業においても活かされているという。
「我々は今幅広く展開しているBtoB事業において様々なクライアントとやりとりをしているわけです。この接点を活かさない手はない、ということで、クライアント企業からロボットに対するニーズや課題を引き出す場を作っています。これは我々の強みで、なかなか海外の企業にはできないことだと思っています」と語る吉田執行役員。
例えば、ソフトバンクロボティクスはすでにAI除菌清掃ロボット「Whiz i」の開発・販売を行なっていたが、この製品に対しても緻密なユーザーニーズの調査を行った。そして、外部機器と接続できるコネクタによりカメラやLED照明などと連携できる「Whiz i アイリスエディション」を開発発売。販促やマーケティングへの活用も可能にした。また、その後は「壁際や什器の下まで清掃したい」「細部の清掃もまとめて行いたい」といったユーザーニーズを受けて、外付けのサイドモップの専用オプションサービスの提供も開始。「床面の除菌清掃の重要性を訴えたことで、日本国内で、AI除菌清掃ロボットの普及につなげることができた」というように、国内累計で2,500社※に導入しており、世界シェアでもナンバーワンだという。 ※「Whiz」シリーズ累計
「ユーザーイン発想で事業を進めれば多様なニーズを拾い出せ、アイデアも広がります。さらなる展開として、AIカメラと連携した防犯対策や、棚の欠品情報を収集して、無駄のないタイムリーな発注につなげるなど、事業の課題解決やパフォーマンスアップに活かせると考えています」。


さらに、もうひとつの目玉商品がある。飲食店やホテル、旅館、小売店などでの配膳、運搬業務の効率化や省力化を実現できるという配膳・運搬ロボット「Servi」で、こちらも「アイリスエディション」を用意している。
「配膳ロボットは他社からも提供されていますが、我々の強みとして、配膳をするだけではなく、店舗でロボットと人がどのように共存して業務を行なえるのか、という観点で、トータルなコンサルティング・ソリューションを提供したいと考えています」と吉田執行役員は語る。例えば、「ホテルのルームサービスなどにも活かせないか」という発想。エレベーターとロボットの自動連携により、ロボットがエレベーターを呼び、指定のフロアまで商品や食事を持っていくといったサービスを行えるようにする。さらに、音声でのフロア案内や電子決済を行うなど、ソリューションの深堀りによって様々な使い方を提案し、サービス向上と人件費削減につなげていきたいという。
「クライアントと接する中でいろいろなニーズが出てきていますが、それをカスタマイズできるのがうちの強み。『このスペックでこの値段だったら買う』というマーケット情報をつくりあげることで、新たな市場を形していくことができます」と話す吉田執行役員。アイリスオーヤマ独自のロボット市場の方向性が見えているようだ。

簡単な操作で配膳・運搬でき、店舗の業務効率化や顧客満足度の向上をサポートする配膳・運搬ロボット「Servi(サービィ) アイリスエディション」


ロボットを活用すること人手不足などの社会課題に貢献

「現代の問題のひとつに人の問題があります。外国人労働者に担ってもらっていた領域も、今円安で賃金が安いため、なかなか集まらないという状況にあります。この人の問題をロボットで解決できないか、と考えています」と話す吉田執行役員。
日本国内では少子高齢化による労働人口減少に加え、新型コロナウイルス感染拡大の影響による人手不足が大きな課題となっている。特に飲食・サービス業界における従事者数は、新型コロナウイルス感染拡大以前から1割以上減少している。
アイリスオーヤマが考えるロボティクス事業では、ロボットを通じて、コロナ禍での課題解決を進めるだけでなく、アフターコロナにおける労働者不足や就業問題など、日本が抱える社会課題にも取り組んでいくことをミッションに設定している。
「従来、人がやってきた清掃や配膳、運搬などの業務をロボットの力を活用する。そして、人は人にしかできないサービス業務や創造的な発想に注力できる環境を構築したいと考えています。人とロボットがともに手を取り合い共働する社会を実現していきたいですね」。
ロボットを取り入れることで生まれる付加価値は、店舗の活性化やサービスアップ、健康的に働ける職場環境の整備、本質業務の生産性向上など、その可能性は計り知れないという。

着実に伸びていくと予想されるロボット市場。アイリスオーヤマではニーズを先取りし、社会的な課題を解決するソリューションとして市場に提案している(「2035年に向けたロボット産業の将来市場予測 」 – NEDOより引用)


さらなるアイデアを創造し、市場全体のDXを拡大

アイリスオーヤマは2011年の東日本大震災では、電力のひっ迫という状況においてLEDを大増産した。津波被害を受けた農家のためには精米事業を開始した。コロナ禍では、マスクを日本で量産したり、AIサーマルカメラなどの感染症対策商品を販売した。つねに喫緊の社会問題とともにあったのがアイリスオーヤマだ。この流れを強化し、さらに新たな社会課題を解決し、企業成長につなげていきたいという。吉田執行役員が目指すこれからのロボット事業のあり方はどんなものだろうか。
「現代社会はいろいろなところで閉塞感があります。ビジネスの領域においても行き詰まり感があるのが今の日本です。働き方の部分でも従来の固定概念を崩していけるか? サービス・ロボットはその問題解決のカギを握っている領域だと考えています。企業や医療・介護施設、教育機関への導入と開発など事業領域を拡大していきたいと考えます」と目を輝かせる。
ロボットをただ販売するだけでなく、クライアント・市場とともにロボットの強みを引き出し、導入効果を最大化できるよう、アイリスオーヤマならではの「ユーザーイン」のアイデアを持って取り組んでいく。「労働力不足解消とDX化に向けた取り組み、さらには脱炭素社会の実現への貢献といった、新たなソリューションの開発と向上を目指していきたいですね。事業にかかる資金も大きいのでいろんなプレッシャーがありますが、将来性とやりがいともに感じることのできる事業だと思っています」。

関連記事一覧