「できる」を実感する街へ。 障害者スポーツの現在と、未来への希望。
Vol.57 仙台市障害者スポーツ協会
2024年は、国際大会で日本の障害者スポーツアスリートが躍動した年だった。メディアでその活躍を知った方も多いはず。一方で、私たちは障害者スポーツをどれだけ自分の身近なものとして捉えられているだろう?その疑問の中にこそ、障害者スポーツ発展の種がある。障害者スポーツを取り巻く現在の課題とこれからの展望を、一般社団法人仙台市障害者スポーツ協会事務局長の菊地利之さんに伺った。
障害者スポーツ、知っていますか?
“あなたは障害者スポーツを見たことがありますか”と聞かれたら、きっと多くの方は「はい」と答えるだろう。しかし、“障害者スポーツに関わったことがありますか”という問いならどうだろう。「いいえ」と答える人が多くなるのではないか。
ここに障害者スポーツの課題があるのだと、障害者スポーツ協会の菊地利之さんは話す。
「障害者スポーツができる場って、あまりないんです。設備の整った体育館がないという意味でもそうですし、そもそも障害者の方がスポーツに参加できる機会もない。環境の整備と、地域に開かれた場の創出が課題です」
協会設立以降のボランティア登録は200名を越え、支援の輪は現在も広がり続けている。今後もより多くの人と関わり、障害者スポーツのことを知ってもらいたいと菊地さんは話す。
「障害に関係なく一緒に楽しめる競技もあります。競技を通じて、実は境目ってそんなにないんだよ、できるものはたくさんあるんだよということを伝えていきたいです」
誰もが楽しめる障害者スポーツ、ボッチャでつながる
障害の有無に関わらず楽しめるスポーツの代表格がボッチャだろう。
ボッチャは、重度脳性麻痺者もしくは同程度の四肢重度機能障害者のために考案された、ヨーロッパ生まれのスポーツだ。競技に必要な基本動作は投球のみで、チームごとに6球ずつ用意された赤もしくは青のボールを、ジャックボールと呼ばれる白いボールに近づける。障害によりボールを投げられない選手は“足技”で挑むことができ、自分の意思で身体を動かすことが難しい選手は専用の器具の使用が認められ、オペレーターのサポートも受けられる。限られた球数の中でどんな戦略を取るかなど、高度な駆け引きも大きな魅力。
ボッチャの特徴は、何といっても“誰もが参加でき、楽しめる”ことだ。障害の有無や年齢、性別、経験等に関わらず、すべての人が一緒に競い合うことができる。そのため、学校の授業で取り入れられたり、地域で教室や大会が開催されたりするなど、障害者スポーツの中では最もあらゆる人々に身近な競技であると言えるだろう。
協会でもボッチャの普及には力を入れており、2023年からは『仙台市長杯 仙台市ボッチャ大会』を開催している。障害のある人、ない人、どちらの方にも参加してもらい一緒にボッチャを楽しむことにより、その魅力を知ってもらうと共に、障害への理解を深めてもらうねらいがある。
「協会の活動の二本柱は、当事者が楽しめる場所を作ることと、支援者を多く募ることです」と菊地さん。ボッチャ大会を通じて相互理解や支援の輪が広がれば、それだけ障害者スポーツの場が増えることに繋がっていくだろう。
一歩を踏み出す。あなたも私も。
運動習慣は心身の健康維持には欠かせない。個人に合った方法で適度に体を動かすことが望ましいが、障害のある方の中には、移動が難しかったり、運動設備のある場所がなかなかなかったりなどの理由で運動の機会に恵まれてこなかった方もいる。そういった方々にスポーツの場を提供し、魅力を届けることが協会のミッションだ。
「運動の経験が少ない方にその楽しさを知ってもらうという、ゼロをイチにするためのきっかけ作りをとても大切にしています。まずはスポーツを通して“自分にもできるんだ!”と感じてもらって、そこから挑戦したい気持ちであるとか、生活の充実感、社会へ出ることの楽しみが生まれてくるといいなと思っています」
記事を読みながら “障害者スポーツに関心があるけれど、どうすればいいかわからない…”と考えている方もいらっしゃるかもしれない。まずは試合観戦を通して、障害者スポーツに触れてみるところから始めてはいかがだろうか。圧倒的スターを有する車いすテニス、“コート上の格闘技”とも称されるほど激しい車いすラグビー、そしてボッチャなど、どれも思わず手に汗を握ってしまうだろう。
協会のホームページには、当事者としてスポーツを楽しみたい方向けの大会情報、ボランティアとして関わりたい方向けの研修や説明会の情報などが数多くアップされている。たとえば、協会が主催する『ボランティアネットワーク研修会』は、障害理解や障害者スポーツに関する知識習得ができるので、初めての人も安心して参加ができる。より深い関わりを持ちたい方は、三日間の研修を受け、『パラスポーツ指導員』の資格を取ることも可能だ。こちらは 18歳以上なら誰でも申し込むことができる。
昨今では、障害のある生徒・児童もない生徒・児童も同じ学校に通い、豊かな学びの機会を得る流れが主流になっている。子どもの多様性を重要視する観点から、学習内容には障害理解についての単元も含まれており、世の中は少しずつ変わり始めている。
「これから先、 “あ、障害者スポーツって授業に出てきたな”とか“ボッチャ、やったことがあるな”という子どもたちが成長したら、きっと現在より良い環境ができるんだろうなという期待があります」
全ての人が豊かな生活を送るための社会づくりの中、障害者スポーツの役割は大きい。
「さまざまな方と交わり、連携し、交流を深め、応援してくれる方を増やしていきたいです。そのためにもまずはできることからはじめて、毎年一歩ずつでもいいから確実に前に進んでいきたいと思います」
これからの協会が目指すビジョンについて、菊地さんは力強くそう語った。
仙台市障害者スポーツ協会
宮城県仙台市宮城野区新田東4-1-1
元気フィールド仙台内 宮城野体育館2階