【シリーズ掲載Vol.2】ものづくり&ひとづくりで半導体産業をリード。『T-Seeds』事務局を務めるフラッシュメモリメーカー

Vol.56
キオクシア岩手株式会社

2024年4月25日。東北エリア、国の半導体関連産業の人材の裾野拡大や基盤強化・発展を目指し、民間主導による産学官の連携体『東北半導体・エレクトロニクスデザインコンソーシアム(T-Seeds。以下同)が組成・発足した。
シリーズ掲載第2回目となる今回は、『T-Seeds』の発起会社の一つで、会長職や事務局も務めるキオクシア岩手株式会社より、総務部人材採用センター高橋洋文センター長と宍戸みづきさんへインタビューを実施。自社の半導体関連事業の紹介や人材育成の取り組み、そしてそれらを推進する上で『T-Seeds』の発足がどんな意味を持つのか。事務局としての立場から、お話しいただいた。

『T-Seeds』における役割。一参加者ではなく、率先垂範する先導者として

「高まる需要に応えられる生産体制が必要」と総務部人材採用センター長の高橋洋文さんは言う。

総務部人材採用センターの宍戸みづきさん。『T-Seeds』事務局が果たすべき役割を日々模索している。


キオクシア岩手は、キオクシアグループ(東芝のメモリ事業を会社分割により承継して発足)のフラッシュメモリの製造を担う会社として、2017年12月に設立。

キオクシアグループでは最大規模の製造棟(第1製造棟)を持ち、AIを活用した生産システムのほか、免震構造の採用や省エネ設備など最先端設備を導入している。

今夏7月には2つ目の製造棟となる第2製造棟(K2棟)の建屋が完成。2025年秋の稼働を目指している。

今夏7月に完成した第2製造棟(K2棟)の建屋(写真左側)。2025年秋の稼働を⽬指す。(写真提供:キオクシア岩⼿株式会社)

 

NAND型フラッシュメモリとは1987年にキオクシア(当時の東芝)が発明した記憶媒体の⼀つ。電源を切ってもデータが消えない不揮発性の半導体メモリで、メモリセルに電⼦をためることでデータを記録する。
デジタル社会の発展に不可欠なフラッシュメモリは、今後AIの普及やデータセンターの増加などにより中長期的な成長が期待されるという。

「当社の第2製造棟の建設と同じように、現在、各企業において設備投資が活発に行われています。高まる需要に応えられるよう、生産体制を拡充するということですね」。
「そこで、体制、つまり人材も必要になっている状況です」と話す高橋さん。

言わずもがな、今は日本全体として人口減少や少子高齢化が叫ばれており、労働人口をいかに確保していくかが重要な課題である。そんな中で、特に伸展の著しい半導体産業では生産体制の拡充、ひいては人材確保が至上命題となっているのだ。

冒頭にある通り、『T-Seeds』の目的は、東北地域における半導体関連産業の人材の裾野拡大と、基盤強化・発展の推進である。キオクシア岩手は『T-Seeds』の発起会社の一つで、会長職や事務局も務めることから、自社の取り組みを通し、率先垂範するという重要な役割を担う。

そんなキオクシア岩手が、半導体人材を育成するために展開する独自の取り組みはどんなものがあるのか。インタビューを続けていく。

入社後の実践を見据えつつ、幅広い分野・領域から半導体人材を募る

2024年度入社式には102人の若き半導体人材が集った。(写真提供:キオクシア岩手株式会社)

若い人材の積極果敢な挑戦に期待を寄せる柴山耕一郎社長は『T-Seeds』の会長も務める。(写真提供:キオクシア岩手株式会社)


まず、半導体産業において企業側が求める人材像について質問する。

「一口に半導体と言っても、我々のようなデバイスメーカー、つまり半導体製品を製造する会社や、その装置をつくる会社、加工する上での材料メーカーなど、様々な業態業種の企業が存在します」。
「そんな中で、電気や電⼦の分野に強い⼈材だけが求められると思われがちですが、実はそうではなく、装置を扱える⼈、またその機械やインフラを動かせる⼈など、さまざまな分野の方が活躍できる領域があります」。
「したがって電気や電⼦に限らず、機械、化学、材料、物理、IT関連の⼈たちも必須です。より効率的な⽣産体制が求められますからね。さらに、技術者だけではなく、それをオペレーションする⼈たちも必要です。勉強してきたことを活かせるフィールドは豊富だと思います」と⾼橋さん。

多種多様な業種業態が有機的に連携し、協働することで半導体産業は成り立っている。だからこそ、求める人材像もまた多様性に富んでいるのだ。

キオクシア岩⼿では、まさに『T-Seeds』の⽬的の⼀つである「⼈材の裾野拡⼤」を率先垂範するかのように、幅広い学部・学科の学⽣を採⽤しているそう。
その上で、宍⼾さんが⾃社採⽤活動で重視している点について、コメントをつなぐ。

「学⽣さんが自身の学習や研究において、最終的な結論を出すまでにどう思考してどう行動したのか。学習・研究内容そのものというより、そうした過程の部分を重視し、選考にあたらせていただいています」。
「というのも、入社後はどの業務でも問題を分析したりデータを統計的に見て判断したりする場面が多くあります。そうした時、過程での思考⼒が必ず活きてくると思います」。

この宍戸さんのコメントは、キオクシア岩手として、ただ単に多分野・多領域の学生を採用しているわけではないことを意味する。
そもそも半導体産業では幅広い領域での深い理解が求められるため、企業としてはそれに対応しうる優秀な⼈材を呼び込む必要がある。そこでキオクシア岩⼿では、⼊社後の実践を⾒据えて、学⽣⼀⼈⼀⼈の研究に対する姿勢や考え方を重視し、⼈材採⽤の⼤きなポイントとして位置付けているのだった。

なんといっても若い人たちに、半導体産業を知ってもらいたい

未来の半導体人材を育成したい。2023年8月9日に行われた小学生プログラミング体験教室の様子。(写真提供:キオクシア岩手株式会社)


キオクシア岩手では、継続的な人材育成の取り組みとして、国内のもう一つの製造拠点である四日市工場で研修を行っている。
実際に仕事をしながら学ぶ四⽇市の研修は、これまで入社した従業員の大半が経験している。入社する従業員の多くは新卒で、このことから、岩⼿では新卒を意識した研修制度の導⼊を進めている。

「具体的には、岩手独自に新人研修のカリキュラムを作成したり、そのフォローアップなどをしたり。また、1年目の導入教育、2年目、3年目とキャリアに応じたフォロー教育も取り入れることで、若い人材の定着にも努めています」と高橋さん。

「採⽤活動における独⾃の取り組みとしては、1dayの企業説明会の他に、複数日にわたるインターンシップも⾏っています。言葉だけでは伝わりづらい半導体工場での働き方を実践的に学んで理解を深めることができる内容になっています」と宍⼾さんが続ける。

その他、小中学生向けや特定の進学校向け、教員向けの見学会など、キオクシア岩手の若い人材の確保に向けた取り組みが活発化している。

半導体産業における優秀な人材確保のために。
裾野拡大と実践的な学びのカリキュラムの創出を目的とする『T-Seeds』において、キオクシア岩手が果たすべき役割は大きい。

自社のPRと『T-Seeds』の取り組みを、車の両輪として捉える

「関係者の力が一つでも欠けてしまえば半導体関連製品はできない。だからこそ、常に業界全体で連携することが重要」と高橋さん・宍戸さん。


『T-Seeds』の事務局として、率先垂範の役割を担うキオクシア岩手。自社の取り組みも推進していく中で、今後、『T-Seeds』をどのように活用していくのだろうか。

「T-Seeds会長であり当社代表でもある柴山のビジョンと同様に、一企業の立場としてはやはり半導体産業にもっと目を向けてもらいたいという想いがあります。T-Seedsの活動を通し自社のPRも推進することで、特に若い人たちに半導体産業を知ってもらいたいですね。もちろん、自社にとっても利益になりますので」。
「また、T-Seedsでは業界全体が連携することの重要性に気付かされています。装置や材料のメーカー、協⼒会社など、この組織体に関わるすべての⼈の⽴場を意識するようになりました。⼀つでも⽋けてしまうと、半導体関連製品はできませんからね」と⾼橋さん。

最後に宍戸さんが、
「採⽤担当の⽴場としては、業務の中で感じ取った学⽣からのニーズや期待をT-Seedsの活動に反映させていきたいという想いがあります」。
「事務局として、またT-Seedsに参画する⼀企業として、この半導体産業全体を盛り上げていきたいです」と締め括った。

参加企業である自社のPR拡大と、『T-Seeds』の取り組みの推進。
この2つの共通目標が車の両輪のように密接に結び付き、相乗効果を生むからこそ、半導体産業活性化の機運は一過性ではない、持続可能なものになるのだろう。


◎本記事はシリーズにて掲載します。次回Vol.3をご期待ください。
キオクシア岩手株式会社
住所:岩手県北上市北工業団地6番6号
TEL:0197-68-8202

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