宮城大学大嶋研究室・地域活性化リーダーを考えるシリーズ1 ー 有限会社マイティー千葉重 千葉大貴代表取締役
Vol.37
有限会社マイティー千葉重 千葉大貴代表取締役 ✖️ 宮城大学大嶋研究室
「人材育成」×「デジタル・IT」×「グローバル」を柱に,総合シンクタンク勤務時代は官庁の調査研究&事業運営や民間企業のコンサルティングに携わり、現在は宮城大学事業構想学群の大嶋淳俊教授。大嶋研究室では今、これからのAI時代にふさわしいデジタル経営の進化や経営リーダー育成の研究に取り組んでいる。その一環で、復興支援・地域活性化の実践フィールドとして仙台市秋保地区に注目し、産官学連携で新商品開発、観光PR動画制作、デジタルマーケティングなどに取り組んでいる。今回その中で出会った復興再生・地方創生を牽引する魅力的な「地域活性化リーダー」に対し、「リーダーシップ(リーダーのあり方、信念、リーダーシップスタイル、他者との連携等)」に焦点を当てて、取材・ヒヤリング・考察を行い、論文にまとめていくというユニークな取り組みを始めている。第1回目は、アキウ舎・アキウツーリズムファクトリー(ATF)事業を展開している有限会社マイティー千葉重 千葉大貴代表取締役。この「地域活性化リーダー」インタビューの様子は、3回シリーズで掲載していく予定だ。(敬称略)
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有限会社マイティー千葉重 千葉大貴代表取締役
「食文化とコミュニケーションという視点で地域を結び、包括的に育てていく」ことを目指し、地域の 食と人をつなぐ「東北復興・農業トレーニングセンタープロジェクト」「マルデミヤギ」などに多数参画。 2018年夏には秋保地区において古民家を再生した観光交流拠点施設「アキウ舎」を開業し、地場 産農作物を使った料理の提供や地域文化の体験イベントを行っている。
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事業構想学群 / 事業構想学研究科 大嶋淳俊 教授
三菱UFJ系総合シンクタンクにて民間コンサルティングと政府系事業に従事。APEC経営人材育成事務局出向。いわき明星大学教授を経て、宮城大学事業構想学群 /事業構想学研究科 教授。デジタルx戦略xリーダー育成を研究。復興支援・地域活性化のために商品開発・観光PR動画制作・デジタルマーケティング・地域ブランディング等の産官学連携PBLプロジェクトを多数実施。キャリア・インターンシップ教育も推進。
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■震災後、3つのタームごとに求められるリーダーシップを発揮
学生:東日本大震災以降の12年を大きく3つの時期にわけて、その時々に力を入れた取り組みと、どのようにリーダーシップを発揮されたかを教えていただけますでしょうか。
千葉:第1期と言えるのは、震災があった2011年から2013年ですかね。震災発災時はケーブルテレビ会社の仕事で新潟に出張していまして、社長室のモニターで震災の生中継を見ていました。「これは経験したことのないような大きな災害になるな」と感じました。そこからすぐには被災地に向かわず新潟に2日間待機。ツイッターのネットワーク網を活用して、地図上にTwitterアカウントを書き込んでいって、ここで爆発が起きているとか、冠水しているとか、道路が閉鎖しているとか、現地の状況を逐次発信し続けました。2日間で現地の状況を把握して被災地に入ることができました。
大嶋:インターネットを活用して、現地の状況を把握されたんですね。
千葉:はい。その後、銀行にある会社の内部留保金をすべて引き出して、被災地に入りました。農業用の300リッタータンクをホームセンターで購入して、車に積んでいき、給水の支援。どこに行っても感謝されましたね。
学生:被災地の復旧支援をされていたんですね。
千葉:会社のフロアはめちゃくちゃで、仕事ができる状況ではなく、スタッフは自宅待機。私はその足でそのまま被災地に入りました。この時期は頭より心が動くというか、感情で動いてたと思うんですよね。 当時私は「地域プロデューサー」という位置付けで経済産業省の事業をしていたので、全国に仲間がいて、いろんな食材を集めて被災地に送り込むという食料支援の活動をしたり、官僚の方々に被災地に入って現場を見ていただくというような取り組みをしました。
学生:「地域プロデューサー」という立場が大きな役割を担えたんですね。
千葉:今の自分の人脈を使えば被災地に相当な食料を送り込めるとか、政府関係でメディアチームを作るぞとなった時、現地リーダーとして手伝うこともできると考えることができました。たまたま前の月に生産者集めた宮城の特産品のテーマで勉強会の基調講演を行っていました。交流会もあっていろいろお話してた直後の震災だったので、その被災地に対して想いが強く湧き上がったんですよね。もう「やらなきゃ」っていうことです。
大嶋:被災地に入られる時に現地の状況を把握されたり、お金を引き下ろして入られたり、そこは経営者のセンスというものが有効だったんだと感じました。あと、人的ネットワークはもちろん、インターネットなどのテクノロジーにも強いっていうことがリーダーとして大切な要素かなという教訓を得たと思います。
学生:2013年からの第2期はどうでしょうか。
千葉:2013年からは企業と一緒に復興支援を精力的に行いました。「あいつは被災地に入って詳しい。かなりいろんなことやってる」という話がどんどん口コミで広がって大手企業さんからも依頼が来るようになったんですね。3年間で約60億円を拠出したキリンの絆プロジェクトのような大きなプロジェクトも任されました。
学生:復興をリードしていく役割を担われたわけですね。
千葉:リーダーとして選ばれたことは名誉なことで、使命感みたいなものも湧き上がって「やるしかないんだ」という想いを強くしました。被災したところからイノベーターが生まれるという話もありますよね。ひょっとしたら逆転して素晴らしい地域になっていくチャンスになり得るかもしれないと思い、前向きな考え方で取り組みました。
学生:そして2015年から第3期となるわけですね。
千葉:自治体の仕事だとどうしても平等を求められるというところが結構ありました。2015年以降はアベレージを求めるってことにちょっと疑問を持つようになりました。 その中で、秋保という町が、表向き秋保温泉という有名な温泉郷がありますが、実際には学校がどんどん廃校になって、一番人口流出が激しい町ということを知ってから、秋保を自分の故郷にしたいという感情が湧き、プロジェクトをスタートさせました。
学生:秋保に入られたのは、そういう思いがあったんですね。
千葉:これは正直ライフワークだと思っていたので、実はあんまりロケットスタートを考えてなかったんです。仕事とプライベートがうまく繋がるんじゃないかっていう思いがあって、自分のペースでゆっくりやろうと思っていたんです。「お金ももらわず、じっくりじっくり」が実はスタートです。ただ、そこで現在秋保ワイナリーの代表取締役をやられている毛利親房さんに出会ってしまった(笑)。それで急発進になってしまったという感じです。
大嶋:タームごとのご自身のエモーショナルな部分と、そのリーダーシップの取り方みたいな違いみたいなところを教えていただきました。危機的状況のときは有事のリーダーシップが必要で、落ち着いてくると周りとの関係に配慮したリーダーシップというように変わってくるべきということがよく言われますよね。まさにその変化を体験されていたのかなと思い、大変興味深く聞かせていただきました。
学生:事業を進めていく上で原動力になる部分は、普段の経営者としての意識・あり方、心の持ち方なんだなとお話しを聞いて思いました。大変勉強になりました。
■One to Oneで信頼関係をより深く構築
学生:取り組みを続けられていく中で、ご自身の心思い、リーダーとしてのあり方について、一貫している部分と部分的に変わってきた面があると推測します。ご自身のみならず周囲との関係性ではいかがでしょうか?
千葉:私の子どもたちが生まれたのは2010年と2011年です。子どもが生まれる前というのはどこか近視眼的な感覚で仕事をしていたように感じます。しかし、子どもたちが生まれてからはかなり目線が遠くになったんですよね。子どもがいることで、長い目で見てこの地域で何とかしたいなっていう思いになったと思います。それは結構大きい変化だなと、自分の中でも。
学生:お子様が生まれたことによって意識が変わったということですか。
千葉:リーダーとして嘘をついたり、人を騙すような卑怯な生き方をしたくないとか、そのあり方や生き方みたいなところを子どもたちに背中で見せたいと考え始めたのはこの時期からです。
大嶋:ご家族が増えて、経営者として、あるいはリーダーとしてのあり方において変化はありましたか?
千葉:そうですね。今まで社員のそういうプライベートにあんまり踏み込まないようにしてたんですけど、震災以降結構プライベートに踏み込むようになりましたね。「将来どのように生きていくんだ」と聞いてみたり、「会社を辞めて外に出たとしてもいずれ子供が生まれたり、親が年をとったりすると自分の故郷に戻ってくることもあると思う。そうなったときのための備えはすべき」と言ってみたり。キャリア論としても、この地元でもしっかり食べていけるように仕事のノウハウを身につけるべきというようなことを言っています。
大嶋:そのような話をしていくと、会社の団結力が高まりますよね。1対1でより信頼関係を深く構築をしていく。その上での組織力ですね。
学生:新しいメンバー社員の方々と関わっていく上で、いろいろな人生や将来の話をされたっていうことがとても印象的でした。最終的には社員さんの雰囲気といいますか、働く人たちの文化の形成にもなっていくのかなと思うと、リーダーシップというものの大きさを感じました。
■失敗、そして挫折からどう乗り越えたか
学生:これまでのご活動を通じての失敗や挫折のご経験がございましたら、どう乗り越えられたのかを教えてください。 また、その失敗や挫折の原因は何だったと考えられるでしょうか。
千葉:失敗や挫折というと、やはり初期の頃のアキウ舎でしょうね。飲食店経営の経験がない中で飲食店経営を始めたんですよね。売れるものを作るってことに対してはある程度自信があったんですが、飲食店のチームビルディングっていうのは初体験でした。デスクワーク系の仕事の文化と飲食店とは全然違うのですが、それをちょっとなめてたというか、、。現場の運営にいろいろ問題が出てきていましたし、経営的にも厳しい状況でした。
学生:今のアキウ舎から、ちょっと想像できない感じです。
千葉:今まで自分の仕事のスタイルは、まずは自分が1から作って自分ができるようになったものを誰かに教えていくパターンでした。今回はその飲食店経営という、自分がやったことがないものをヒトに任せるというやり方になったんですね。もう全然コントロールはできなかったですね。例えば「月に何十時間残業します」と言われても、自分がやったことがないと改善の仕方がわからない。なんでも承認しているうちに組織としてのガバナンスが崩壊し、負債もふくらんでいったんです。本当に大失敗でした。でもこれも経営者の責任なんです。
学生:この問題を、どのように乗り越えられたんですか。
千葉:現場に入りましたね。現場入って皿洗いをして、それこそ草むしりのようなアルバイトも嫌がるような仕事ばかりやってとにかく現場を観察しました。次第にお客様の様子、現場の改善点などもよくわかるようになり、スタッフたちとの信頼関係も生まれました。そこから大なたを振っての大改革。人件費から原材料費まで現場からも意見をもらいながら圧縮していき、その結果、残業もなくなり一気に黒字転換できました。やっぱり現場を知らないと経営はできないな、と感じました。
大嶋:先ほどの第2期とか第3期で東京の大きい企業グループや財団とやり取りされて、地域活性化や再生に大きく役立つようなご活動をいっぱいされたというお話がありましたが、その際何かご苦労されたりしたことはございますか。
千葉:補助金についてですかね。補助金をもらうことに慣れてしまうと。どうしても麻薬性や中毒性があるので、自分で事業をしなくなってしまいます。支援はありがたいですが、過剰すぎる支援は人を駄目にするなって思いました。ですので、政府機関や支援企業などには、「お金ではなく経営者を育てましょう」と言い続けました。
大嶋:それって重要ですよね。やはり東京の大資本の企業は、その辺りのことは頭で分かっていても、現場のことまで分からないですから、現場の代表である千葉社長からリアルな話を聞くことで、彼らもより有効な予算の使い方がわかったのではないでしょうか。
学生:最初は東京の大きな企業と連携されて支援をされていたという話を聞いてすごいなって感想でしたが、その中で過剰すぎる支援は問題があったということを知り驚きました。すごく勉強になりました。
■地域ブランディングに必要なものは「種火」としてリーダーシップ
学生: 貴社の地方創生の事業は、仙台・宮城・東北の「地域ブランディング」の向上を目指しているのかなと感じています。これからの課題と、それを超えていく考え方・方策についてどのように考えているか、教えてください。
千葉:地域ブランディングは現在ほとんど委託や補助金事業なんですよね。ただ、日本の国は今元気がなくなっていて、そうした予算がどんどん出なくなっています。ですので「予算がついたからやります」ではなく、自分たちが「やりたい事業をやれる方法でやり続ける」ことが大事です。実はブランディングで一番大切なことは「リソース管理」です。リソース管理をしっかり行い、事業を継続できる仕組みをどうするかを、いつも考えてます。
学生:地域ブランディングを維持するためにも、地域活性化リーダーを質・量ともに高めていく必要があると思いますが、どのような人材育成活動が有効であるとお考えでしょうか。
千葉:海外の大学では行われていることですが、たとえば大学の在学中に「事業」にチャレンジしてみるのも良いと思います。小さくて簡易なモデルでかまわないので「事業」と「授業」という二つの軸で学ぶことができれば、リスクも少なく、効果的な人材育成につながるのではないかと思います。金を稼ぐことは学校でやることじゃない、という方がすごく多いなと思いますが、そこはもう根底から変えるべきかなと思っています。
大嶋:うちの研究室では、今年こそ「稼げるような価値を生み出そう」と言っています(笑)。お金が取れるようなクオリティのものをちゃんと作り出せるかということも大切ですね。
千葉:個人的には、本来お金を稼ぐための原点としては「人がやりたくないもの」「人ができないこと」を代わりにやってあげることだと思っています。例えば、そういった仕事の中にこそ、お金を稼ぐためのヒントがあったりします。きつければきついほど、誰もやりたがらないわけですから競合も少ない。でも、何らかのアイデアで簡単にすることができれば、それが稼げるビジネスになったりします。そうしたヒントはそんな現場にこそ落ちていることが多いです。
学生:やりたくないことでもやり続ける、そのモチベーションをリーダーが送りとどけないとダメですよね。
千葉:リーダーの存在って「種火」なんだと思っています。その種火がペラペラのティッシュペーパーだったら一瞬で消えてしまいますよ。種火ってずっと強く燃え続けてるから、周りが着火していく。隣に火をつけていくために、燃え続けることってすごく大事だと思うんですね。これがリーダー論の中で、多分大事な考え方だと思うんです。
大嶋:地域の中に燃え続ける種火になる。これが千葉さんが考える地域活性化リーダーですね。
千葉:最後に故郷に戻ったときに故郷に大きい還元ができる若者になってもらいたいなと思っています。資本主義の経済一辺倒の教育ばっかりだったところから、「何が豊かなのか?」という生き方論みたいなところにつながっていくと思っています。地方創生って多分そこなんだろうと思います。
学生:いろいろお話をいただき、ありがとうございました。地域活性化や地域ブランディングのために実際にプロジェクトを動かされてきた経験から、リーダーシップのあり方や、人材育成や企業の中の会社の団結力など、とても有意義な学びをいただきました。本当にありがとうございました。
◎本記事はシリーズにて掲載します。次回の「宮城大学大嶋研究室・地域活性化リーダーを考えるシリーズ2」をご期待ください。
有限会社マイティー千葉重
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宮城大学事業構想学群 大嶋淳俊 研究室
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