AI×超音波画像。魚の雌雄判別装置で水産業界の課題解決へ。

Vol.30
東杜シーテック株式会社

産学官連携による地域貢献や社会課題解決への取り組みが各地で展開されている。宮城県では東日本大震災以来、東北大学情報知能システム研究センター(以下IIS研究センター)が中心となり、東北沿岸部の被災地域が抱え続ける課題の解決や、地元企業の活性化、雇用層出などに取り組んできた。その連携企業の1社「東杜シーテック株式会社」が開発した、魚の雌雄を判別する装置「Smart Echo®︎(以下スマートエコー)」が、水産業界の課題を解決するとして注目されている。また、先頃実証実験が行われた「魚種選別システム」の開発にも携わっている。期待される二つの開発を手掛ける東杜シーテックとはどんな会社なのか。本田光正社長にインタビューを試みた。

社会に貢献できる自社製品を開発したい

東杜シーテック株式会社は、システムやソフトウェアの開発会社として2002年に設立した。当初は主に、カーナビ・カーオーディオなどの製品組み込みソフトウェアや、キーレスエントリー・パワーウィンドウなど車載電装分野のソフトウェアの受託開発を行う会社だった。
「はじめは経験と実績を積むため受託開発が多かったですね。それでも、やはり自社製品を開発して社会に貢献したい気持ちもあり、当時、東北大学大学院情報科学研究科の青木孝文教授が主催していた、産学官連携の事業に関するセミナーを度々受講していました」

会社設立から約5年が経過した2008年、世界経済に激震が走る出来事が起こる。リーマン・ショックによって、実際に受注が減る、仕事がなくなるという現実を目の当たりにした本田社長は、自社製品の開発に注力したいという思いをより強くした。
「リーマン・ショック後、2010年に東北大学工学部電気情報系の約80の研究室が参画して、産学官連携推進を担う『東北大学IIS研究センター』が設立した際、青木教授のもとで受託研究員として研究成果をソフトウェアにまとめる事業に携わることになったのです」

東北大学IIS研究センターは、大学の最先端の技術資源と企業の技術力を集結し、社会実装に向けた産学官連携体制の実現により社会貢献を目指すというものだ。この取り組みの中で、本田社長は青木教授の研究室へ若手社員を中心に派遣し、東杜シーテックは先端技術を習得する機会を得た。
「最初に学んだのは画像処理です。画像には、可視画像だけでなく超音波画像や熱画像などがありますし、画像処理には障害物検知や形状計測などに役立つものもあります。実際に大学で研究されている最先端の画像処理技術を学び、応用や組み合わせを行いながら、仕事に活かせるように習得していきました」

「組込みソフトウェア開発などの分野で実績を上げてきたことも、サービス開発を行う上で役立っています」と本田社長。

機械化・自動化が復興と水産業の課題解決のカギ

2011年、東日本大震災で被災した地域の調査のため、東杜シーテックはIIS研究センターとともに沿岸地区を訪れた。
「気仙沼をはじめ三陸各地の被災地区を視察して、復興のために何が必要か調査するため現地の方々の声を聞いて回りました。沿岸地域で問題が顕著なのは漁業などの水産業です。少子高齢化、後継者不足、人手不足、熟練者の減少などといった問題があげられました。特に、マダラの雌雄を見分けられる熟練者の減少は大きな課題だったのです」
マダラは白子が珍重されるため、雄の出荷単価が高い。そのため熟練の目利きが雌雄を判別するのだ。本田社長は、同じ地元企業として東北の水産業が抱える課題を何とかしたいと、これまで熟練者に委ねていた雌雄判別を機械化・自動化で解決できないかと考えた。これが魚の雌雄判別装置「スマートエコー」開発のきっかけである。

ハンディタイプの「スマートエコーBX」。魚の雌雄判別を簡単に衛生的に行える。

1万件を超えるサンプルデータを収集して学習させる

「スマートエコーとは、AI(人工知能)と超音波画像を掛け合わせた装置です。魚の腹部に装置を当てると、機械学習を繰り返した判別ソフトウェアが超音波エコー画像を瞬時に判別します」
スマートエコーは誰でも簡単に雌雄判別できるところが画期的な点だ。この成果は、1万件を超える学習データの収集と機械学習、実証実験とフィードバックの繰り返しにより精度を上げていくという、長期にわたる開発によるものである。
「やはりそれなりのサンプル数が必要になります。漁獲の地域や水揚げの時間帯、水揚げしてからの経過時間などによっても微妙に違いがあり、そのデータを集めるのが一苦労でした。データ収集のため魚を全部買い取るわけにもいかないので、漁協さんや漁港さんにご協力いただきながら各地で実証実験を行いました。鳥取県のユーザーさんがマフグを対象に行った実験では、雌雄混在で出荷した場合キロ単価200〜267円だったのに対し、スマートエコーを使用し雌雄分けて出荷した場合、オスのキロ単価は600〜700円と明らかな価格向上が見られたそうです」と、プロダクトマネージャーの藤田知之さんが振り返る。

「現在スマートエコーで判別するのはマダラとサケがメインです。今後、製品として対応できる魚種を増やしてニーズに応えていきたいです」(藤田知之さん)

スマートエコーシリーズが「みやぎ優れMONO」認定

現在、スマートエコーは防水、コードレスで船上や魚市場などでの作業に適した「BX」、コンベアタイプで大量仕分けに対応可能な「AX」、超音波エコー画像と取得シーンを同時に表示・記録し、データをPC上で再生・整理できる「MX2」がある。これらスマートエコーシリーズは2022年「みやぎ優れMONO」の認定を受けた。
「ソフトからハードウェアの組み立てまで含めて、自社開発を行う企業は仙台ではまだ少ないんです。超音波のハードごと開発し、製品に仕上げたことが評価されたのだと思います」
本田社長は認定を受けたことをそう分析する。

AI・画像処理で魚種を自動選別するシステムの開発も

水産業の熟練者や人手不足問題は、雌雄判別に関することだけではない。多くの漁港で実施されている定置網などの魚の選別作業は、熟練した人手が必要だ。作業負担が大きい上に、大半が高齢層に頼っている状況である。この課題を解決するため、IIS研究センターが中心となって「スマートマリンチェーンプロジェクト」を立ち上げた。産学連携を活用しており、漁業関係者はじめ、水産施設やIT、ソフトウェアなどの地域企業、大手企業、地元自治体が関わっている。東杜シーテックは、本プロジェクトの魚種選別システムの開発にも取り組んできた。統括マネージャーの白川清彦さんが説明する。

「少子高齢化が課題となる中、装置の実用化により人手不足の解消につなげることで地域に貢献していきたいです」(白川清彦さん)


「このサービスは、水揚げした魚をリアルタイムかつ自動で魚種などの選別を行うものです。AIを活用し魚種とそのサイズを自動判定して、ロボット技術によって魚の仕分けをします。当社は、画像処理技術とAI技術による魚種判定の機構を担当しています」
水揚げされた魚がベルトコンベアで運ばれてくると、特殊なカメラで撮影して1匹ずつ画像処理される。AIが自動で種類や大きさを判別し、次々と仕分けられていくのだが、1分間に最大200匹の魚が選別できるという。2022年10月に西日本魚市、11月にかけて長崎魚市、八戸漁港、12月には気仙沼や女川の魚市場で実証実験が行われた。実用化は2024年度になるという。

全長約13メートルある魚種選別システムの装置。魚種判定の機構については、画像データと立体データを組み合わせることでノイズの少ない画像の取得が可能になったという。
機械が魚種の仕分けを行う。
 スマートマリンチェーンプロジェクトの全体図。水揚げから流通まで高い生産性と付加価値の創造につながる。

新しい開発に挑戦し続け社会の役に立つ企業に

「東北大学IIS研究センターの連携企業として参加させていただくようになって10年以上経ちました。現在はAIと画像処理技術をかけ合わせ、動画の顔検出追跡、工業製品・土管などのインフラ・河川の異常検出、携帯電話のカメラ校正、ロボットへの応用といったシステムの実用化に力を入れています」
東杜シーテックの強みは、まさにこの“掛け合わせ“である。東北大学などの学術機関と連携することで、最先端技術と同社がこれまで培ってきた技術力やノウハウを融合して、社会の役に立つ開発を行う。同社の開発拠点は3ヶ所に分かれている。本社ではAI関連、画像処理やモバイルアプリ、映像編集機の開発拠点、「Fish&Robo Base」と呼ばれる事業所は、自社製品や受託システムの開発拠点、泉.Officeは半導体製造装置のソフトウェア受託請負開発拠点となっている。

梱包作業の効率化のためリンゴ整列の自動化に関する開発を行っている渡部結衣さん。
社内外の人をつなぐ新連携担当の佐藤恵理さん。


「会社としては、社員がそれぞれやりたい方向に向かって力を合わせる形を望んでいます。DXとか新しい分野も含めて目指すものを見つけ、トライしてほしいと思っています。その結果、社会のためになるシステムの開発につながる、そういう会社でありたいです」
自社製品で社会に貢献したいという本田社長の思いは、いま社員全員の思いとして新たなチャレンジを続けている。

本社にはAI、画像処理などに関わるチームが在籍。
開発製品やサービスの広報を担当する野口珠実さん。

東杜シーテック株式会社
住所:仙台市宮城野区銀杏町31-24
TEL:022-354-1230

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